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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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  • 11/02/13:37

09.05.20:52

幻想の詩―博麗の連―#2

東方SS四作目。
霊夢×紫の連載物。

魔理沙の来訪が与える物は。



「――なんて、冗談よ」

 紫はそう云って、扇子で口元を隠して、目だけを細めた。もしもその表情を全て窺い見る事が出来たなら、他の感情も読み取れたかも知れない。だが、少なくとも今の私には、さも可笑しそうに細められた目しか、見る事は出来なかった。それだから、私は落ち着かない心臓の鼓動を自ら無視するように、何時もの対応をする事になる。他に云いたい事はある気がしている。けれども、その言葉を紡ぐには、私は余りに無知過ぎた。先刻の紫の言葉に、云い知れない喜びを感じていた理由など、知ってはいないから。私は博麗の巫女として、接しなければならない。

「あんたらしくない冗談ね」

 あれほど騒がしかった心臓は既に落ち着きを取り戻していて、耳に障る風の音はもう聞こえなくて、私は少し鼻を鳴らしながら相槌を打った。そして、自分の前に置いたお茶を一口啜ると、熱い息を吐く。紫はお茶には手を付けず、扇子で自分を煽いでいる。手が動く度に贈られるそよ風が、長い金色の髪の毛を靡かせていた。何となく心持が悪くなって、私はなるべくその光景を見ないように努めた。幸い縁側の方を見ていれば、不自然にはならない。私達がこうして向かい合う事は多々あるが、それでも安穏とした時を過ごしているばかりだ。自然でないはずがない。
 ――それでも、唐突に呟かれた紫の言葉は、異物を体内に入れられるが如く、私の底で蠢いていた。その言葉が紡がれた時にも、私は紫の顔を見る事が出来ず、変わり映えのない外の景色を眺めていた。何一つ、頭には入らなかった。

「――そうね、私らしくない冗談よ」


◆2


 翌日、紫はこの神社に来なかった。今までも毎日のように訪れていた訳ではない。それなのに紫一人が居ないだけで掃除はこうも捗る物なのか、と驚かされた。しかし掃除を終えて見れば、閑散とした神社の中には何の楽しみも無いように思われた。鬱陶しいと思っていたが、紫は私の徒然を紛らわせてくれる相手だったのだと思い直したが、だからと云って来て欲しいとは思わなかった。その理由は、深く考えていない。

「……」

 何もする事がなく、取り敢えず私はお茶を飲もうと思い立つ。毎日何も変わらない日常だった。異変が起きなければ、その間の平和を噛み締める。否、実際私は〝噛み締める〟なんて思っては居ないのかも知れない。博麗の巫女は異変を解決する為の存在だから、即ち異変とは存在意義でもある。その意義が奪われているこの平和な間、私は何を意義として存在しているのだろうか。もしかしたなら、この平和さえ疎く思っているのかも知れない。
 ――胸が苦しくなる。何で一人の時はこんな事ばかりを考えてしまうのか、自分の行動原理に嫌気が差す。私は無理に今までの思考を振り払って、母屋の方へと歩き始めた。昨日と同じ澄み渡る蒼い空が頭上に広がっている。白い雲は悠然と漂い、穏やかな風が流して行く。そうだ、何も変わらない。何も変わっては、いない。

 お茶を飲みながら、ぼんやりと過ごしていると魔理沙が訪れて来た。どうやら今日は弾幕ごっこの勝負を申し込みに来た訳ではないらしく、箒は外に立て掛けて「お邪魔するぜ」と一言云って、居間へと入って来た。私も誰も来なければ無為に過ごすだけだったので、拒絶する意味もなく、魔理沙の来訪を受け入れた。

「今日は誰も居ないな」
「そんなに毎日誰かが来る訳じゃないわよ」

 魔理沙の分のお茶を出して、私達は筋違いに座った。魔理沙は何処か神妙な面持ちで机の上に視線を落としていたが、口を開く様子も中々窺えなかったので、私も何も云わずにお茶を啜った。蝉の声が心なしか弱々しくなっている気がする。夏の終わりも近いのかも知れない。秋が訪れようとも、すぐに過ぎ去って行くのだろうけど。四季の中で秋と春は、最も儚くて、曖昧な物だ。そうして、私の心を痛め付ける。春は恋しく、秋は恨めしい。何でそう思うかは、やはり判らないが、それでもその気持ちは変わらない。何時だったろうか、そう感じるようになったのは。

「レミリアとか紫とか萃香とかは居ると思ったんだがな」
「生憎、最近見たのは紫だけね。何をした訳でもないけど」

 魔理沙はそれで押し黙った。何をしに来たのか未だに判然とした分別が付かないが、時折思案する様子を見せている事から何もしないで帰る訳ではなさそうだ。私は呑気に待つ事にして、もう一口お茶を啜る。――沈黙が破られるのは、意外に早かった。魔理沙は何処か緊張したような面持ちで、だけども真摯な眼差しで、私を見詰め、云った。

「お前は、妖怪と人間との間に、どんな差があると考える?」

 それは唐突に問われるには、余りにも意味が不明瞭過ぎる言葉だった。何を意図した発言なのか、図り知れない言葉だった。魔理沙の眼差しは相変わらず真摯で、私もそれに相応しい態度を以て答えを返さなければならない気がした。しかし、妖怪と人間との間にある差と云っても、沢山ある。それも、他人に聞くまでもなく簡単な事だ。妖怪との付き合いもある魔理沙に、それが判らないはずがなかった。私は訝しげに魔理沙を見遣り、暫く考えた後、答えを返した。

「身体の耐久力、寿命、生まれ持つ能力――今更聞くような事でもないでしょ」
「……じゃあ、人間が妖怪に変化する事に対して、どう思う?」
「あ、あんたまさか――」

 魔理沙の次の問いを聞いた時には、既に声を上げていた。その問いは、ある懸念をありありと示した。つまり、魔理沙が妖怪へと成り替わると云う意思を持っているかどうか。今までの魔理沙を見る限り、そんな素振りを見た事はただの一度も無かった。魔法使いだと自称しながら、人間で居続ける魔理沙には何か思う所があるのだろうとも思ったし、特に気にする事でも無かったが、今になってそれに反した意見を仄めかしているのだから、驚いた。
 しかし、当の本人は私の剣幕とは裏腹な苦笑気味の表情をして、首を振っていた。どうやら、妖怪になろうとしているつもりではないらしかったので、私も深く追究する事なく、お茶を啜った。

「失くす物と得られる物、それを判っていて、覚悟が出来ているなら何も思わないわ。でも、それを出来ないまま妖怪になって、自我を失った化け物となるなら私の手を煩わせる事になる。博麗の巫女として、ね」

 私の答えは、事務的且つ無感情だと思わざるを得なかった。博麗の巫女は常に畏怖の対象で無ければならない。他と異なった存在意義が、感情的になる事を許さないのだ。例え魔理沙が妖怪と云う区別の中に身を置く事を考えているならば、私は博麗の巫女が伝えるべき事を伝えねばならない。つまり、自分が敵と云う対象にも成り得て、人間の時に持っていた物を失くす事。それが私自身の思想なのか、それとも博麗の巫女としての私がそう云うのか、もう判らない。

「――そうか」

 魔理沙はただ一言だけ云って、漸くお茶を口にした。「苦いな」と零したその顔は、寂しそうな微笑を湛えていて、苦悩に満ち満ちていた。私の言葉では魔理沙が持って来た悩みを解決するには至らなかったらしい事は明白で、それが何故なのか判らない訳でもない。博麗としての私が云った言葉にしろ、私自身が云った言葉にしろ、魔理沙にとってはそんな事は関係ないだろう。私が力に成り得るだけの素質を持っていなかっただけなのだ。

「また今度、来るぜ」

 お茶を飲み終わったのか、魔理沙は立ち上がった。そう、と返して、縁側から外に出る魔理沙を見ると、その背中には何か哀愁が漂っているように感じられた。箒に跨って、空を見上げた時には何か別の物を見詰めているような気がした。大地から離れ、大空に向かって浮かび上がった時には不安になった。
 ――何故だろう。私が私で無くなって行くような気がしていた。

 

 

――続
 幻想の詩はシリーズになる予定です。
 シェアード・ワールドに似てる感じですね。
 だからこの作品で敷いた伏線が、他の幻想の詩で回収される事もあります。
 

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