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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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11.02.17:36

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  • 11/02/17:36

12.04.15:08

幻想の詩―紅魔の連―#7

東方SS六十五作目。
紅魔館の面々で連載物。


背に掛かるのはただただ重い闇。

「こんな夜のこんな時間に会うなんて珍しいわね」


 青白く光る月を仰いで、先刻この場所へやってきた女に彼女は云った。女はそれで少し顔を顰める。自分は珍しいと評されるくらいに部屋から出ない訳ではないと表情が物語っている。幼い容貌の、しかしその幼さには似付かない気品を持っている少女は「冗談よ」と云って笑った。


「まあ否定出来ないのも確かではあるけれど」
「自分でもそう思っていたんじゃない」
「自分で思うのと貴方に云われるのとは、結構な差があるものよ」


 手に持った書を持ち直して、女は嘆息して見せた。楽しそうに笑んでいる少女は、それを見てより笑みを濃くする。女は呆れたようにまた息を吐き出して、閉ざされている手洗い所の扉を少し見た。


「そういう貴方はあの子の付添かしら」
「そうよ。一人じゃ怖くてお手洗いにも行けないらしいわ」
「随分と肩入れするのね。人間はお嫌いのはずではなくて?」
「ただの気紛れよ。ただ、私に気紛れを起こさせるくらいの要素を持っている子というだけで」
「そう。まあ私は何も云わないけど。――あの子にもそうしてあげられたら好かったわね」
「……私が不器用なのは、ご存知でしょう。今更掛ける優しさなんて、忘れてしまったわ」


 女はその言句を聞いて一歩歩き出した。かつと靴音が長い廊下の中を木霊する。そして、背中越しに「そう」と云い残すと、間もなく消え失せた。取り残された少女は、彼女が去って行った方向を見詰めている。けれどももっと他の者を見詰めているようである。暗い暗い廊下の続く先は、一寸も見えぬ。暗がりですら見通す彼女の眼は、しかしその先を捉える事はない。遠く何処かで、狼の遠吠えが聞こえた気がした。

 

 

 

 

 


 迸った光。
 干からびて行く身体。
 物云わぬ骸と化した同胞。
 遠くに聞こえた奮起の掛声。
 ――恐怖。
 恐ろしい。ただ恐ろしい。そうして悲しい。
 落ちた涙が赤い飛沫を跳ね上げた。


「……っ」


 目を覚ますと、そこは自分が取った宿ではなく、薄暗く埃臭い部屋の中だった。ソファに寝転ばせた身体の節々が痛む。パチュリーは額に浮かんだ脂汗を手の甲で拭って、息切れを起こしながら周囲を見回した。
 風化した本が立ち並ぶ本棚、黴の生えた椅子、足が二本欠けて使い物にならない机。廃墟の様相を呈するその部屋は、噎せかえるような埃臭さに塗れていた。喉の調子が悪い。恐らくこの部屋の所為だろう。パチュリーはそんな事を思いつつ、二三度の咳をした。


「……」


 壊れた机を境にして、対面に位置するソファの上に横たわった少女が居る。パチュリーはそれを見て、漸く自分が何故こんな所で眠っていたのか理解した。どれほどの時間が経過したのか、自分と少女が戦った後、突如として倒れた少女を介抱して、どうやら眠ってしまったらしい。当の少女は爛れた皮膚も元に戻り、安らかな寝息を立てている。それを見て、パチュリーはやはり、こんなにも幼いのにと思わずには居られなかった。


 ところへ、少女の小さな手がぴくりと動く。それに続くようにして閉じられた瞼が動き、もぞもぞと身体を動かしてから、紅の双眸が露出する。パチュリーはそれを見た時にその場に立とうかどうか迷った。敵として相対していた者に無防備な姿を晒すのが憚られたからである。その無警戒が仇となって命を落とす結果になってしまっても構わないが、何より少女の矜持を傷付けてしまうのが気掛かりであった。
 が、そうこうしている内に、少女は首を少し曲げ、パチュリーの姿を捉えていた。そしてそれにパチュリーが気付いた時には、俊敏に体勢を立て直して戦闘態勢を取っていた。パチュリーは動く事も出来ず、ソファに腰掛けたまま、少女の事を見詰めるより他になかった。


「お目覚めかしら」
「……何をしている」
「ただ治療をしていただけよ。貴方のね」


 少女の瞳は依然として敵意に燃えている。対するパチュリーの方は、恐怖など微塵も感じさせない飄々とした態度ばかりを見せる。少女は攻撃に移るのもままらないようだった。心持ち強く噛み締められている唇から、赤い雫が伝っている。負けたのが悔しいからか、それとも先に判じた通りに吸血鬼としての矜持が影響しているのか、判然とした根拠はなかったが、パチュリーは彼女が攻撃してこない訳をそう判断した。


「それにしても頑丈な身体なのね。灰燼に帰すつもりで放った魔法だったのに」
「……帰れ。でなければ殺す」


 素直に褒め称えるパチュリーを視界の内から消して、少女は背を向けて、そう云った。パチュリーはそれが案外なようで、少女の背中を暫し見詰めていたが、やがて面白そうに笑った。


「命の恩人をそんな慳貪に扱って好いのかしら」
「関係ない」
「こんな立派なお屋敷に住んでいたのなら、貴族だったはずだけど、その誇りなんて忘れてしまったの?」
「……関係ない。――昔の事なんて、忘れてしまった」


 少女は声音を少し暗くして、そう云った。並々ならぬ闇が、彼女の過去にはあるように思われる。パチュリーは少女の小さな背中には、この館の全ての闇が圧し掛かっているように思った。生半可な覚悟では聞くのでさえ憚れるほどの闇がるように思った。しかして、それが彼女らの間に芽生えた初めての共通点なのである。彼女らは等しく、多大な闇の前に屈した者であった。パチュリーがそれを感じ取った時には、既にこう提案していた。


「決めた。暫く此処の厄介になるわ」


 少女が慌てた様子で後ろを振り返ると、パチュリーはにこにこと笑いながら、少女の紅い眼を見詰めていた。

 

 

 

 

 

 

 

――続

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