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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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11.02.17:38

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  • 11/02/17:38

10.13.01:30

幻想の詩―蓬莱の連―#6

東方SS三十六作目。
蓬莱の薬に手を出した面々で連載物。


彼女にとって、それは長い長い押し問答。

 招待されて向かった家は、大きくもなければ小さくもなく、それなりな大きさの家であった。
 日は高い。丁度昼飯時である。妹紅は慧音と此処に来ながら、幾つか話をしたが、お礼と云うのはきっと昼食をご馳走するくらいのものだろうと二人で議論した結果思っていた。そうして家の中に入れられてみると、その推測に間違いはなく、この家の外観とは似付かないほど豪奢な料理が食机の上に所狭しと並べられていた。


 どう見積もろうと、妹紅はこれらの料理が全て自分の腹に入るのかどうか疑わしかった。慧音の支援を入れても、全てなくなるか怪しい。それどころか、その豪奢な料理はまるで自分の為だけに用意されたが如く、元々此処の家人である四人の人間は、手元に質素な料理を持っていた。これではとても心地よく食事にありつけないと思い、妹紅は慧音と顔を見合わせると、どうぞご一緒して下さい。大した事をした訳でもないし、何より飯が美味しくなくなるからと、依頼した。


 四人の家族は最初は遠慮していえと繰り返していたが、やがて慧音と妹紅の説得に折れたと見えて、とうとう全員が同じ飯を突き始めた。漸く安心を得た妹紅も、見た目の豪華さを裏切る事なく、美味しい料理に素直な感嘆の言葉を漏らすようになった。その内、話題は次第に個々人の事へと変わって行った。妹紅は途端に、慧音の家に香る竹の匂いが、恋しくなった。此処で得られた安心は、あそこと比べれば全く質の違う安心であった。

 

 

 

 

 

 

「――ええ、ええ、見ての通り小さな家でして。今日は息子と娘の命を助けてくれた方をおもてなそうと、出来得る限りの努力をしたつもりです。美味しいと云って貰えて、ほとほと安心しました」


 慧音が並べられた料理の数々に対して、その全てに対して総合的な批評を述べると、母親はそう云った。相当気合いを入れていたと見えて、妹紅も慧音と同じ批評を加えると、母親は更に恐縮した様子で礼を述べる。妹紅としては、そんなに京福される謂われなどなかったから、普通に接して欲しいと思うのだが、どう云い回そうとも、この家族の前に全て棄却されてしまうだろうとい思い、今まで云わないでいた。早く帰りたいという意思も、その影響を少なからず受けているかも知れない。そんな事を自分の中に呟いて、人知れず彼女は苦笑した。


「いえ、私などは何もしていませんから、こうしてご馳走になっているのも厚かましいかと……」
「とんでもございません。私達が何時も安心して暮らせるのは全て上白沢様のお陰なのですから、こうして招待するのも遅いくらいでしょう。――尤も、それじゃ里のみんなに呼ばれてしまうでしょうが」


 慧音の言葉に、一家の父親は冗談を交えて笑った。慧音は心持ち顔を赤く染めていたが、父親の冗談が余りに的を射ていた為に、一同は全員笑った。先の母親と負けず劣らず、恐縮して見せる慧音を見て、妹紅は珍しいと批評を加えたが、仕方がないと小声で話す慧音を見て、また可笑しくなった。実際気の強そうな彼女が恐縮している姿を、妹紅は滅多に見た事がない。このまま、話題が流れてしまえば好いと彼女は思っていた。


「藤原様は何をしておられるのですか」


 今まで比較的寡黙な方であった息子が、会話が途切れた合間を見付けて、唐突に問い掛けた。娘の方は頻りに固い肉を噛み千切ろうと顎に力を入れている。兄の様子には気付いていないようである。
 妹紅は自分に興味が集中されているのに気付く他なかった。そうして、それ故に自分が何をしているのかという問いに返すべき正しい答えを持ち得ない。何もしていないのだから、答えられる道理はないのである。けれども、改めてこの場になってみると、それを話すのも憚られた。一塊の羞恥心は、彼女の矜持に少しの傷を入れる事を拒んだ。かと云って、沈黙がこの場を支配するのも嫌で、妹紅は「ええと」と間を作った。


「普段は竹林の案内人をやっているんだ。私の家と比較的近い所に居るから、先日の祭りの手伝いとして呼んだのだが、本当に妹紅が居てくれて好かった。――お前達も安心しただろう」


 ところへ、助け船を出すように、慧音が嘘とも本当とも付かぬ事を述べて、優しく兄妹に問うた。二人の兄弟は互いに顔を見合わせたが、やがて頷き合うと、はいと云った。
 妹紅はこの話題が自分の一歩奥に入ってくるのを恐れていた。この場で違う話題が面を出すのを願った。しかし、そんな彼女の心境を毫も知らない無邪気な娘は、今までずっと気にしていた疑問の解消を望むが如く、妹紅が最も忌避していた問題は、あろうことか、家人達が残っている中で口にしてしまった。


「お姉ちゃんは先生と同じ妖怪なの?」
「……妖怪ではないね。厳密に云えば」
「そうだったのですか。すると、貴方はどんな人なのでしょう」


 父親が会話に混ざった。妹紅の帰りたい心持ちは段々膨らんで行った。


「一応人間ではあります。ですが、これも厳密に云えば違います」
「すると、結局はどうなのでしょう」
「あなた、少し失礼よ。女の子の事をそう深く聞くものじゃないわ」


 そこでこの問答は途切れた。
 妹紅は人知れず安堵の溜息を吐いたが、隣りに席を占めた慧音にはそれが聞こえていたらしい。大丈夫かと小さく聞かれ、こちらも同じく大丈夫よと返した。それきり件の問題が面を出す事はなく、雑談を交わしながら、賑やかな時が過ぎて行った。妹紅の心持ちは一向変わる事はなかった。

 

 

 


――続

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