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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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11.02.17:38

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  • 11/02/17:38

10.20.20:45

幻想の詩―蓬莱の連―#7

東方SS三十七作目。
蓬莱の薬に手を出した面々で連載物。


曰く、蓬莱の人の形。
曰く、蓬莱の操り人形。
 

 



「人の好い家族だったな」


 帰りの道中を辿る中、慧音は妹紅に話しかけた。
 必要以上にもてなされてしまったという遠慮があったからか、その言葉からは幾分嬉しさが読み取れる。対する妹紅は憮然とした表情で、適当な相槌を打っているだけである。慧音は何か気に障る事でもあったのだろうかと考えたが、すぐに思い当たった理由も彼女の気分を好くは出来ないと思い、云わないでいた。


「――ああ、そういえば、輝夜がまた来るかも知れなかった」


 黙りこくっていた妹紅が、唐突な呟きを洩らす。慧音は特に驚きもせず、彼女達が行っている不毛な戦いを思い浮かべて、顔を顰めた。何時まで続くのかと尋ねようとしたが、それもまた意味のない事だと思ったので、云わなかった。彼女達の感覚は自分とは違う。数え切れぬ星霜を過ごしてきた彼女達に、たかだか云百年生きた自分が出す言葉など無いように思われた。云えたとしても、それは表面ばかりが整って、中身のない言葉である。
 慧音は途端に妹紅や輝夜が不憫に思えた。その理屈からしたら、彼女達に言葉を出せる物など殆ど居ないではないか。慧音が知る者には、到底そんなお節介をするような者は居なかった。


「なるべく、怪我はするな」


 そう慧音が口にした時には、既に自宅の門の前であった。
 妹紅は別れの挨拶も適当に、月光のみが足元を照らしている暗い竹林の中を進んで行った。
 彼女は、お礼と銘打った宴会から帰る直前、娘から云われた事を思い出す。
 娘は「また来て欲しい」と尊敬に眼差しを輝かせながら、確かに云った。

 

 


 

 


 最早定位置となりつつある竹林の開けた場所は、幾度も繰り返された激戦の末に本来の姿を忘れている。本来はるはずであった天に伸びる竹は、或いは焔によって焼き尽くされ、或いは固い弾丸によってへし折られ、また或いは跡形もなく消し飛ばされた。それらが積み重なって、この戦いの場は新たな形を手に入れた。落ち葉さえ一枚も見当たらない剥き出しの地面は、その過程を物語っている。最近になって、妹紅はその変化を敏感に感じ取るようになった。


「好い夜ね。月光明るく気候は穏やか。殺し合うには、実に都合の好い天気」
「ああ、雨なんて無粋かも知れない。私の焔が少なからず翳ってしまうから」
「あら意外。雨にも目を向けるべき、傾聴すべき趣向は沢山あるわ」
「それも意外ね。あんたにそれを感じるだけの情操が残されているなんて」


 月光の降る荒野の真中、二人の女はそうして互いに笑い合う。
 そしてその笑い声が途切れる瞬間に、戦いの火蓋は開かれる。
 妹紅は一枚の符を取り出す。対する輝夜も、同様に符を取り出す。二人の詠唱は何時も同時である。今回も例の如く、同時に詠唱が成された。言霊を受けて輝く府はやがて見るも鮮やかな焔の花と、光の弾を具現する。二人は色の違う光を受けながら、宙に浮かんだ。そうして攻撃合図が同時に行われ、焔と光玉の衝突が始まる。


「――楽しいわ! 相手の生死なんて考えず、持つ力を存分に振るうのは!」
「哀しいね。思う存分振るう力がその程度。手加減なんてしない方が好い。でないと一瞬で灰になる」


 暫し均衡を保っていた焔と光玉の勢力は、瞬時に形勢を動かした。妹紅の放った不死鳥の尾から舞い散る羽の如き火の弾は、風を受けて揺らめくように、しかし勢いは烈火の如く、光の弾を蹴散らして輝夜に肉迫する。周囲の竹がじりじりと悲鳴を上げるほどの熱が、輝夜の肌を焼く。白い皮膚が次第に爛れる。しかしそれも、僅かな逡巡の後に発せられた輝夜の笑い声と共に、一度に消し去られてしまった。


「手加減は間違いじゃないわ。最近の手応えのなさを忘れさせてくれるなら」
「そんなに最近の私は弱かったの」
「ええ、目も当てられないくらいにはね」
「それじゃ、今日は楽しませてやる。いっそ死ねたらと思えるくらいにはね」


 二人の女は、妖艶な笑みを互いに浮かべつつ、また符を取り出す。そこから繰り出される攻撃の数々は、大地を捲り、竹を薙ぎ倒し、轟音は月に哭す。輝夜は始終笑みを浮かべている。心底楽しそうな狂気の笑みである。妹紅は――妹紅もそうかも知れない。けれども二人には決定的な相違点がある。それは誰にも判然と付かない。戦っている妹紅でさえ、その相違には気付いていない。だから、無暗に攻撃する。だから、輝夜は楽しんでいる。


「弱いわね。目に余るわ。何があったのか知らないけど、殺す価値も無い」
「面白い事を云うのね。私に殺す価値なんて付けられないのは判っていると思ったけど」
「――本当に、弱い」


 妹紅には少なからず誤算が有ったに違いない。
 それを証明するかのように、彼女は油断し過ぎていた。幾度戦ったのかも知れぬ輝夜の力量を読み間違えていた。自身の実力の低下がそれを促したのかも知れない。だがそれは余りにも克明に、現れてしまった。
 輝夜が憐憫の眼差しを向けたかと思うと、彼女が展開した光の弾は、あっという間に妹紅の放った焔の盾を掻き消して、次々と彼女の身に傷を作った。成す術はなかった。妹紅はその連撃の間に反撃する隙を見付けられなかった。僅かな間隙さえも皆無である光の弾幕。それが妹紅の命の灯火を消すのも、そう時間は掛からない。


 ――やがて熾烈な攻撃が一段落を見せた時には、妹紅は剥き出しの地面の上に身を横たえていた。


「手加減なんてしない方が好い。そう云ったのは誰かしら」
「……した、つもり、なんて、ない」
「だとしたら私が余程強くなったのか、貴方が余程弱くなったのか、そのどちらかね」
「……」
「どちらにしたって、つまらないわ。最近の貴方は、本当に蓬莱に操られている人形のよう」
「……」
「興醒めね。それじゃ私の相手も務まらない。昔の勢いは何処へやら。今の貴方には何も感じない」
「……私、も」


 薄れる意識は死の予兆に他ならない。すぐに復活するとは云えども、それは死の感覚に限りなく近い。妹紅はせめて何か云わねばと、血の味ばかりが広がる舌をもごもごと動かした。


「私も、何も、感じない」


 ――それきり彼女は何を聞き取る事も出来なくなった。
 輝夜によってそれがもたらされたのか、限界が訪れたのかは判然としない。
 ただ平生は感じない虚無感ばかりが、彼女を苛めた。

 

 

 

――続
 

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