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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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11.02.17:38

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  • 11/02/17:38

11.22.21:51

幻想の詩―紅魔の連―#3

東方SS五十七作目。
紅魔館の面々で連載物。


深淵の闇に浮かんだ紅の光。

「それから女の人はどうしたの?」


 幼い少女は、眠気も吹っ飛んだかのようにそう尋ねた。月の光が肌を青白く染まらせる時分、語り手の頬は不健康な青さを帯びている。語り手は、滑らかに動いていた舌を休めると、穏やかに笑みながら「さあ」と答えた。


「語り手は物語だけを語るのよ。結末を語るのは聞き手だけ。語り手はどんな質問にも答えられないわ。どうしてか判る?」


 語り手の少女は傍らに置いてあった燭台に火を灯すと、そう尋ねた。ベッドに寝転がる少女は暫くの間考えていたが、やがて答えが見付からなかったと見えて、首を横に振った。語り手の少女は面白そうに笑って、教えてあげると云う。妖艶な笑みが月光に映えて、殊更に幻想的な美しさを醸し出している。しかし紅く輝く双眸は、何よりも強い光を放っていた。
 ――飲み込まれそうだ、と少女は幼いながらも思う。包み込むなどという生易しい光ではない。喰らわれてしまうような剣呑さを内に秘めた光である。少女はその眼光に臆しながらも、その美しさに見惚れていた。


「真実の断片でさえも決して漏らさないように、そうするの」


 語り手はそうして流れるような物語を紡ぎ出した。二人の意識は、今居る世界とは別の世界へと飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 赤々と靡く焔を頼りに仄暗い廊下を進んで行くと、そこはアナクロニズムの塊であった。
 見事な絵が描かれていたと思われる絵画はことごとくが埃を表面に被せ、本来映るはずの風光明媚な景色は少しも認められない。幾星霜の時を過ごしたのかも判然とせず、ただその痛み具合が絵の古さを物語っている。女は何度も壁に掛けられたそういう絵を見ながら、廊下を進んでいた。ある時は壺が置台の上で半分粉々の状態になっていた。またある時には枯れて朽ちた花が、花瓶の中に差してあった時もあった。まるでこの館の内だけが、外の世界よりも遅れているようである。


 ――女はそんな物寂しい様を目に留めながら、延々と続くかと思われる廊下を歩いていた。終着点に到達したかと思えば、そこには階段があり、そしてまた長い廊下を歩いて行けば、階段に到着する。その繰り返しが幾度成されたであろうか、女は漸く足を止めた。目の前にはやはり埃を表面に被せた古い扉がある。木製のそれは所々が朽ちかけており、豪奢な装飾もすっかり影を潜めている。女は錆びた金の取っ手を掴むと、緩慢な動作で捻った。


 重苦しい音を立てて扉は開く。小さな隙間は焔に照らされて、徐々に部屋の中を明らかにする。女は雑然とした部屋を、段々と大きくなって行く隙間から見ていた。


 ――だが、彼女の視界はその直後、赤に染まった。鋭く厳かな紅の双眸が、隙間の中から彼女を見上げていたのである。そこに漲る殺気や、敵意などと云ったものが、全て女に向けられていた。暗闇の中に灯った小さな赤い光は、誰かの瞳だ。女は背筋におぞましい寒気が走るのを感じた。誰一人として居ない孤独な空間に居て、茫然と佇んでいる時に突然肩を叩かれたかのような不気味な心地がした。そうして刹那の時間も経たぬ内に、女の首を何者かの手が掴んだ。


 くぐもった声を漏らし、女は背後の壁に叩き付けられた。足は地に付かず、ぶらぶらと揺れている。恐ろしい力を以て女を押さえ付ける手は、決してその力を弱めはしない。しかし女の手の平に浮かぶ焔は、正体不明の敵を映し出した。意図した偶然であったのか、それとも予期しない偶然だったのか、とにかくその手の主は姿を露わにした。――女は驚くより他にない。苦しそうに歪んだ表情は、その中に確かな驚きの色を含んでいた。


「誰」


 言葉短く紡がれた手の主の声は、ただ相手を恐怖に陥れる為だけにあつらえられた物であった。甘さなど微塵も含まない、言葉だけで相手を殺そうとする意思が見え隠れするぐらいに、荘厳である。しかしその声は幼かった。女には少女の声のように思われた。そうしてそれを肯定するかのように、手の主の顔は、身体は、そのことごとくが幼かったのである。所々が破け、お世辞にも綺麗とは云えない赤く薄汚れたドレスは、本来の色が純白であった事を主張するように、時折灰色に近い白を見せている。青白い頬には赤がべたりとくっ付き、端正な顔に穢れさせている。蒼銀の髪の毛はこの暗闇の中でも尚、褪せる事がない。そんな少女が、女の首を掴み、持ち上げている。


「これじゃ、喋る事も、出来やしない」


 途切れ途切れの言句を聞き、握力は弱くなる。とんと足が地に着いたと同時に、女は二三度の咳をした。埃臭い廊下ではその咳も苦痛の後押しをするだけであったが、それでも何とか女は体勢を整えると、もう一度目の前の少女を見下ろした。


「貴方は?」
「誰だと、聞いている」


 少女の五指の先にある鋭い爪が、赤い光を受けて艶めかしく輝く。紅の双眸に込められた敵意と殺気は少しも衰えていない。女は面食らったように黙っていたが、少女の手に力が込められたのを見て、謝罪した。


「……ごめんなさい。私はパチュリー=ノーレッジ」
「何をしに此処へ来た。返答次第では殺す」


 女はパチュリーと自身の名を名乗った。凡そ少女とは思えない厳酷な物言いは、誰彼も問わず足を竦ませる恐ろしさを孕んでいる。しかしそれでも、パチュリーは少しも狼狽えなかった。それどころか温和な笑みさえ浮かべている。先刻の村人に対する態度とはまるで逆であった。そうして、今にも砕けそうな儚さがある。この館に並べられている絵画のように、壺のように、花のように、朽ちた趣がある。少女は妙な顔をして、一層鋭い目付きでパチュリーを睥睨した。


「――私を、殺して貰いに」


 女はそう云って、微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

――続

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