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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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11.02.17:40

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  • 11/02/17:40

11.23.22:57

幻想の詩―紅魔の連―#4

東方SS五十八作目。
紅魔館の面々で連載物。


脳裏に蠢く過去の実像。

 二人が居る薄暗い室内には、紅茶の好い匂いが漂っていた。二人の中心を境に分け隔てるようにして置かれた机の上には、二つのカップが湯気を立てながら鎮座している。語り手は二つのカップの内一つを手に取ると、上品な仕草で口に付けた。聞き手は紅茶よりも物語の続きを楽しみにしているようである。すると語り手は中々続きを語り出さないので、彼女はこんな事を尋ねた。


「どうして女の人は自分を殺して欲しかったの?」


 それは語り手にとって、とてもとても無粋な質問だった。カップを机の上に置いた語り手は、冴えない白さに月光の青白さを含んだ片頬に笑みを含みながら、「どうしてでしょうね」と勿体ぶらせて云った。
 聞き手の少女はそれで、不服そうに頬を膨らませた。早く続きを話して欲しいとせがんでいる。


「――それにしても、好い月が出ているわ」


 彼女は窓の外に悠然と浮かんでいる満月に目を向けながら、そんな事を呟いた。自分の意見を無視された聞き手の少女は、更に不服そうに頬を膨らませる。語り手は、ふふと笑うと、次の句を最後に、再び物語を紡ぎ出して行った。


「こんな夜には、魔女と吸血鬼のワルツが見れそうね」


 聞き手の少女は、無邪気に笑った。

 

 

 

 

 

 

 けたたましい人々の喧噪が飛び交う中、小汚い布に身を包め、身体の内より出でたる顫動を止めようと、少女は歯を食い縛りながら座り込んでいた。
 自らの犯した大罪が、その身を苛める。決して後戻りの出来ぬ道を突き進んできた事が、今更になって恐怖を与える。少女は見開いた目に自分の手を映しては、そこから迸った光を思い出して、がちがちと歯を震わせた。小さな民家の軒下に座り込み、その前を多くの人々が口々に熱罵を喚き散らしながら過ぎて行く。手には赤々と燃え盛る松明と、木の柄の先に銀色に輝く刃を無暗に光らせる槍を持ち、「殺せ」と叫んでいる。


 やがて少女は、数刻前の映像を思い浮かべる。自分の手から発せられた青白い光が、人々の心臓を巡っては過ぎ、巡っては過ぎて行く光景を。そうして音もなく崩れ堕ちる人々の姿を。自分の手の内にある、淡く発光する奇跡の石を見詰めては、その光景を思い出す。親しかった者達が、慕った者達が、愛おしかった人々が、次々と命を失って行く様を、思い出す。彼女は目の奥が熱くなるのを感じた。けれども、決して涙は流すまいと必死に堪えていた。


 ――殺せ! その声をもう一度聞いた時、突如として視界の中に入り込んだのは、所々が黒ずんでいる汚い天井だった。自分の前を通り過ぎて行く人々も居なければ、手の内に光る石がある事もない。彼女は冷たい汗で体中を濡らし、荒い息遣いをしながら覚醒した。薄く粗末な布団は、破れそうになるくらいの強さで握り締められていた。


「あははは」


 渇いた笑いが静かな室内に木霊する。何の感情も籠らない恐ろしい笑い声が、女の口から発せられる。狂人のような笑い声が響いている。誰かを嘲笑うかのような、人を不快にさせる笑い声であった。


 やがて女は一頻り笑い終えると、ベッドの上から這い出て、汗ばんで気色の悪い感触がする衣服を脱ぎ捨てた。すると、窓から入る陽光を受けて輝く病的なほど白い肌が一瞬間露見したかと思われた時、何時の間にか女は何時も通りのひらひらとした動きにくそうなドレスを身に纏っていた。そうして、一息を吐いた後、昨日と同じように宿を後にした。


 店主はあの紅い館へ訪れると云って、平気な顔で帰ってきた女を訝しんだが、昨日のはただの冗談だろうと考えて、一人納得した。だから、昨日と同じように涼しい顔をして自分の宿を出て行く女を目にしても、特に何かを尋ねる事はなかった。大方この村を散策するだけだろう程度に考えて、簡単な挨拶と共に送り出した。
 けれども、すぐに姿を消してしまう女がどんな方法を使っているのか、それだけが気に掛かって、女が出て行った後にすぐ自分も外に出て、女の行き先を確認しようとしたところ、やはり女の姿は煙も残さず消え失せて、閑静な住宅が並ぶ道が見えるのみであった。やはり魔女の類だろうか、主人はそんな事を考えては、身震いする肩を手で押さえるのだった。


 女の前に立ちはだかる紅い館は、昨日と何も変わらなかった。黒い窓掛けに隠された室内も、大きく豪奢な装飾が施されているが薄汚れている入口の扉も、何も変わらない。女は昨日と同じように、扉の前に立ってがちゃりと錠の外れる音を聞くと共に薄暗く埃臭い館の中へと足を踏み入れた。


「……」


 すると、二三歩と進まぬ内に、彼女の前に立つ者があった。暗闇の中で自己の存在を誇張する紅の双眸が、廊下の真中でじっと自分を睨み付けているのが、女にはすぐに判った。薄汚れた衣服も、頬に走った赤い色も、全てが全て、昨日と同じである。パチュリーはその姿を認めると、命を奪われかねない相手だというのにも関わらず、実に気楽そうな足取りで、視線だけで自分を威嚇する少女の近くへと歩んだ。


「こんにちは。貴方達にとっては、お休みの時間じゃないのかしら」
「お前の所為で眠れない。一体何の用で此処に来た」
「昨日も云ったはずだけど。私を殺して貰う為だ、って」


 柔らかな物腰でそう告げるパチュリーを見て、少女はまた紅い瞳に宿る殺気を強くした。けれども、パチュリーの依頼をそう易々と引き受ける気概もないようで、近付いてくるパチュリーに向かって、冷たく「帰れ」と云い放った。


「帰れと云われて帰らない侵入者が居たらどうするのかしらね? 殺してくれるのなら、私は大歓迎だけれど」


 パチュリーの言葉は明らかに少女を挑発している。少女の矜持を損なわせるのが目的の挑発である。二人の間に起こる精神的な闘争に於いて、パチュリーは甚だ有利な位置に身を置いている。彼女はにやりと口元を歪めた。すると歯の軋む不協和音が、仄暗い廊下に響く。少女は、蛇が鎌首をもたげて獲物を狙うかの如く、ゆっくりと腕を後ろに引いた。それに力の籠る音が、パチュリーにさえ聞こえる心持ちがした。


「殺さずに追い出せば事足りる。二度と来たくなくなるような目に逢わせれば好いだけだ」
「中途半端な殺しは遠慮するわ。二度と来れないようにして欲しいんだから」


 あはは、と笑って、パチュリーは目の前の少女を見遣った。
 暗闇の中に紅い光が二つ浮かんでいると、不思議な心地である。そんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 


――続

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