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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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11.02.17:25

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  • 11/02/17:25

11.24.02:08

幻想の詩―紅魔の連―#5

東方SS五十九作目。
紅魔館の面々で連載物。


化け物と化け物の闘争劇。

「紅茶が無くなってしまったわ」


 語り手はカップの中身を見て、そう云った。鮮やかな赤色をした液体に浮かんだ月はもう消え失せている。白い湯気も立たず、冷えたカップは二つとも空になった。語り手はそれを遺憾としたようで、「淹れて来ましょうか」と席を立った。それを見た聞き手の少女が、縋るように語り手の服の裾を掴む。くいと引っ張られて、語り手が聞き手の少女を見遣ると、上目使いに自分を見上げてくる青い瞳が輝いていた。


「どうしたの」


 そう尋ねると、ベッドに座っていた聞き手の少女はもじもじと身体を動かした。足を擦り寄せて、落ち着かなそうにしている。語り手は何かを察したのか、面白そうに笑んで膝を屈めた。


「お手洗い?」


 聞き手の少女は大人しく首を縦に振る。語り手は一層面白そうに笑った。服の裾を掴む少女の手は、離されていない。「怖いの」と尋ねると、素直に頷いた。全く面白い少女だと彼女は思う。自分がどうして此処にいるのか判っていないのかも知れないとさえ思った。けれども此処は夜を切り裂く明かりに乏しい。聞き手の少女が怖がるのは無理もない事である。人間は暗闇を無意識に恐れるのだ。語り手はそう思って少女の手を取ると、優しく立つように促した。


 部屋の外に出ると冷えた空気が身体を震わせた。月の光だけが頼りの暗い廊下を、二人分の足跡が響く。薄く伸ばされた影が二人の後を追って行く。全く好い夜だ。語り手はそう云った。


「続きを話しましょうか」


 そして長い廊下に、物語が反響する。

 

 

 

 

 

 

 凶悪な勢いに乗った脅威の手は、容易く女の首を掴み取った。卓越した身体能力を有するようには思えぬほど華奢な体躯の少女が、自分よりも大きな女を持ち上げる。小さな呻き声が女の口から洩れ、冷たい瞳が下から彼女を射抜く。――少女はまるで球を投げるが如く、軽そうな調子で勢いを付け、それからパチュリーを壁に叩き付けた。


「……」


 頭から叩き付けられ、壁に大きな穴が空く。片付いていない部屋の中が露わとなり、パチュリーの身体はそこへ投げ飛ばされた。古びたソファや机が規則正しく並ぶ部屋は、廊下よりも一層埃臭かった。パチュリーは咳き込みながらその場に立ち直ると、痛む頭を押さえて、空いた穴の向こうに立っている少女を見遣った。依然として笑みを崩さない姿は不気味にさえ感じられる事であろう。こき、と鳴らした首の音が、殊更に不気味である。


「酷いわね。――でも、これじゃ死ねない」


 まるで小さな子供との戯れであった。パチュリーは命の危険さえ迫る戦いを自覚していながら、その調子であった。それが余計に少女の怒りを煽ったのだろう。総毛立つような気迫を漲らせた少女は、どんな刃にも勝る切れ味を以て、パチュリーを睨んだ。背から迸る力の片鱗は、大気さえ震わせているようである。パチュリーは口元を歪めた。


「こんな所で詠唱だなんて、あまり気が向かないんだけど」


 そんな事を云って、パチュリーは前に手を出した。すると、そこに一冊の本が現れる。何百項とありそうな分厚い本の項が次々と高速で捲られて行き、一つの項で止まる。その不可思議な光景を、少女は怪訝な眼差しで見遣っていた。今までに見た事のない現象だったのかも知れない。それはパチュリーにとっては好機以外の何物でもなかった。


 パチュリーの口から紡がれるのは詠のようで詠とは違った、儀式であった。詠唱が進む度に一つ二つと彼女の周りに現れる魔法陣に白い光が現れ、見た事もないような言語で術式が形成されて行く。
 ただの人間。少女はそう思って疑わなかった事であろう。如何なる方法を用いて錠の掛けられたこの館へ入って来たのかは疑問だったが、それでも人間の持つ技巧次第ではどうにかなりそうなものである。しかし、今目の前に展開されている光景は凡人の成せる所業だろうか。断じて違う。少女の瞳にはそういう疑念の光が宿っていた。


 ――天に昇りしは祭火の神格。蒼天を染める赤き光輝の雨を降らせし者の名、梵(アグニ)。
 そうしてパチュリーの詠唱が、終わる。ちりちりと、埃の焼ける匂いが室内に充満する。パチュリーの周囲に展開した魔法陣から魔力が迸る。パチュリーは少女を見据えて笑った。


「吸血鬼の弱点は日光と云うけれど、どちらにしろ灰になるのなら焔でも充分ね」


 直後、豪と唸りを上げて、展開された魔法陣から焔の雨が少女を襲った。応接間として使われていたと思われる部屋の中の物という物は、その焔が通れば灰燼と化した。先刻空いた穴は更に大きく吹き飛ばされ、魔力の奔流が天井を崩れさせる。狭い室内で発動したその魔法は、ほとんど光刃となって辺りを吹き飛ばした。少女の更に向こうにある窓を、壁さえも突き破った。大気さえも焼く灼熱の焔の雨は、入り込んでくる日光さえも赤く染めて、暫くの間降り注いでいた。


「弔いの火にしては派手過ぎかしら。死んでいなければ好いけど」


 漸く焔の雨が止んだ時には、大きな穴が館に空いていた。既に燃やす域に留まらないほどの熱量は、消滅の域へと達し、物が存在した痕跡を残すなどという甘い結果を残さない。全てはその焔の前に消滅したのだ。文字通り、跡形もなく、消え失せたのである。


 ――燦と降り注ぐ日光がパチュリーの白い頬を照らす。彼女の前に居たはずの少女の姿は、そこにない。

 

 

 

 

 

 


――続

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