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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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11.02.17:32

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  • 11/02/17:32

12.01.23:06

幻想の詩―紅魔の連―#6

東方SS六十四作目。
紅魔館の面々で連載物。


乱暴に輝く太陽の光は容赦なく。

「似たような生き物を見てるんだから、そう怖がらなくても大丈夫よ」


 長い廊下を辿った末に辿り着いた手洗い所を前に、怯えていた少女は語り手のドレスの裾を掴んで離さず、一向に一人で中に入ろうとしなかった。一人までしか入れぬその場所に立ち入るのも気が引けて、語り手は此処にいるから大丈夫と念を押して云った。未だ怯えている少女は、それで漸く決心が付いたのか、最後まで頼りなさそうな表情をしながら手洗い所に入って行った。


 そうして一人になった語り手は、窓より差し込む月光を身に浴びて目を細めた。乱暴的に輝く太陽よりも繊細で優雅な輝きを放つ満月の方が綺麗だ、そんな事を思いながら、薄暗い廊下に立っていた。満点の星空は競い合うようにして、各々が強い光を放っている。やはり夜はこうでなくてはいけない、そう思っていた少女の耳に、足音が聞こえてきた。


 聞き手の少女は手洗いの最中である。とすれば、長い廊下の中に響き渡る高い靴音はそれ以外の誰かのものだ。それは判っていたが、別段怪訝な顔つきになるでもなく、語り手は涼しい顔をして近付いてくる足音に耳を傾けていた。やがてそれが一歩二歩と歩んでくると、闇の中から一人の女が姿を現した。


「好い夜ね」
「ええ、本当に」


 そんな事を云い合って、二人は笑った。

 

 

 

 

 

 

 こんなものか――パチュリーは内心で失望すると共に、目の前に確かに居たはずの少女が跡形もなく消え失せているのを見て、微かに悲しげな顔をした。破壊によって巻き上がった粉塵は次第に晴れて行く。太陽の光に暴かれる紅い館にも光が差す。パチュリーはその明りに目を細めながら、瓦礫を踏み付けて歩き出した。


 ――が。


「ッ……!」


 そこに広がるのは、無数の蝙蝠が形を成して行く現実とは思えぬ光景だった。きいきいと鳴き声を立てながら、煩わしい羽の音を鳴らす蝙蝠達の群れ――それが細く固まったかと思えば、白い肌が現れ、鋭い爪が現れる。黒い身体は真逆の白へと変貌し、足が形成され、頭が身体が完成し、最後に頭が作られる。


 パチュリーは我が目を疑った。自分が放った魔法には確かな手応えを感じていた。そして、自分の魔力が例え強靭な肉体を持つ吸血鬼であろうとも無傷でいさせるはずがないと自負していた。しかし、目の前で怒りに燃える紅の瞳をぎらつかせた少女は、傷一つ無く、火傷など少しも見当たらない状態で、今一度復活して見せたのである。


 パチュリーの口元は歪曲を描いた。わなわなと震える唇は、恐れではなく、歓喜を表していた。


「貴様……!」


 忌々しげに少女が吐き捨てる。拳を作った手は、自身の爪が食い込んで赤い血が滴っている。しかしパチュリーは、殺意を孕んだ戦意を目にしているにも関わらず自身の前に出現させた本を掻き消した。途端に彼女の周りを取り囲んでいた魔力は身を潜め、そこには普通の人間の女性と何も変わらぬ女性が一人、笑いながら少女を見詰めていた。


「私の頼みを聞いてくれないのは貴族の矜持か、それとも吸血鬼の矜持なのかしら」


 そう云ってパチュリーは衣服に付いた埃を手で払う。少女は今にも飛びかかって、パチュリーの細い首を圧し折ってしまいそうなほどの殺意に震えている。だが、それでも飛び掛かっては来なかった。身構える様子もないパチュリーに攻撃を仕掛けられないのは、彼女の言葉が的を射ているからかも知れない。


「どちらにしろ非礼を詫びるわ。今は亡き王女の吸血鬼」
「何を云って……っ」


 少女はパチュリーの言葉を聞いて、一瞬何を云っているのか判らないような表情をして、急に地面の上に倒れた。彼女が立っていたのは既に館の中ではなく、燦と輝く太陽が容赦のない陽光を降ろす空の下であった。倒れた少女は苦しそうに呻きながら、動けずにいる。見ると身体から煙が上がっている。パチュリーは好くない状態だと悟った。


「ねえ、貴方大丈夫なの?」


 傍に近寄って、パチュリーは少女の細い手を取ってみた。まるで枯れた木の枝のように細く脆そうな腕は、次第に皮膚が爛れてきていた。日光が当たる個所からは依然として煙が上がっている。日光が弱点なのも真実だったのか、そう判じたパチュリーは恐ろしく軽い少女の身体を抱き抱えると、屋敷の中に戻った。そうして、陽の届かない所まで少女を運ぶと、手頃な位置に寝かせ、先刻と同様の本を目の前に現した。


「私が貴方を殺しても、意味は無いのよ」


 そう云いながら、また詠唱を始める。仰向けに寝かされた少女の下から魔法陣が浮かび上がり、淡い光が身体を包み込む。少女は意識を失ったのか苦しそうな呻き声さえ上げずに、静かに、死体のように静かに眠っていた。その時だけは、パチュリーは目の前の少女は先刻自分に殺意をぶつけてきた者と同一とは思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

――続

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