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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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11.02.15:20

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  • 11/02/15:20

11.29.20:57

幻想郷大戦#14

東方SS六十三作目。
たまには激しく戦闘物。


戦いの真なる火蓋が切られるのは、これからである。



 時は薄暮に向かっている。
 赤く燃える太陽は次第に稜線に隠れて行き、深淵の闇が世界を間もなく包み込む。人間は眠りへと近付き、妖怪は活動に向かう。物語は動き始めようと蠢いている。長い一日はまだ始まったばかりなのである。

 

 

 

 

 

 

 竹林の奥に佇む永遠亭の大広間には、四人の妖怪が集まっていた。正しく突き詰めれば妖怪ではないが、幻想郷の均衡を保つ立場に於いて彼女らは妖怪だ。四人は楽しそうに笑う姫君を中心として話し合いをしている。


「私達はこれから人里の一つに、妖怪達から守る為に赴くわ」


 まるで死闘に赴くとは思えぬ調子で、永遠亭の主、蓬莱山輝夜は云う。その従者の永琳は輝夜の隣に座っている。異議など唱える様子は微塵もない。その佇まい自体が、既に碌々としている。
 対して力を持つ二人は怪訝な眼差しをして輝夜と永琳を見ていた。彼女の発言に驚きが隠せないかのように、目を丸くしている。その一人である因幡てゐに至っては、えーと不承不承とした態度を表している。


「どうしたんですか、突然」
「イナバも聞いたでしょう、あの声を」
「それは聞きましたが……」
「だったら話は早いじゃない。私達が人間側に付くだけなのよ」
「でも、それが釈然としません。何も私達が出張る事はないのでは?」
「ふふ、イナバには判らないのかも知れないわ。私にとってはただの暇潰しなの」


 鈴仙はそんな輝夜の言葉を聞いて、漸く納得した。輝夜が気紛れで何かしようとするのは珍しい事ではない。隙間妖怪のお触れは、実に都合の好い暇潰しの材料なのだ。しかし、月から逃げてきた鈴仙には躊躇いが生まれた。戦争という恐ろしい事態が起こっては、耐えられる自信がなかった。また逃げてしまうかも知れない。自分は師匠や姫のように永遠の命を持っていなければ、怪我をしたらすぐに回復するような能力も持ち合わせていないのだ。


「逃げたくなったら逃げれば好いのよ」
「え?」
「何も私達が人間の為に死ぬような義理はないんだから。危なくなったら逃げる、それは当り前よ」
「まあどちらにしろ姫の命令は断れないんだしねー」


 てゐと輝夜はそれで笑った。永琳は宛然としたまま表情を動かさない。鈴仙は一人目を丸くしている。逃げる事は許されなかった月とは真逆に、彼女らは逃げる事を当然としていた。それが何だか不思議で、何処か安心を彼女にもたらした。輝夜とてゐは、戦いが終わった後は人里から金を巻き上げましょうと云い合っている。まるで危機など感じた様子がなく、遊びに行くかのような様子だった。鈴仙は一人不安になっていたのが馬鹿らしくなった。


「それじゃ、異議はないかしら?」


 輝夜の言葉に、全員が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 茜色に染まった空を見上げて、藤原妹紅は一人物思いに耽っていた。
 先刻萃香が去ってから、自分に安穏とした時は潰えたのだと思った。妖怪と人間の命運を賭けた戦いが始まる中で、自分は延々と悩み続けねばならないのだ。人里を守ろうとしている者は判り切っている。果たして自分はそれに扶持しなければならないのだろうか。そればかりが頭の中に浮かんで来ては、そんな義理はないのだと云い聞かせる。人間達がしてきた仕打ちを顧みろ、そう云う自分の声が聞こえている。


 そんな時、妹紅の背後から物音がした。
 こんな時間に人間が来るはずもない。彼女が振り返ると、案の定そこには異形の妖怪が居た。見たところ知能を持っているとは思えない、獣と然して変わらない妖怪である。その妖怪は、喉を鳴らしながら黄色い目を妹紅に向けて、今にも飛び掛かろうと身構えていた。妹紅は身構える事もなく、それを見詰めている。


 ――やがて、妖怪は鋭い牙が生え揃う口を大きく開けて、獲物を切り裂く爪が生えた足で大地を蹴った。そうしてあっという間に妹紅との距離を詰めると、その喉元を食い千切ろうとした。
 が、そんな獣よりも強いだけの妖怪に妹紅が負けるはずもない。彼女が前に手を掲げた時には、妖怪の身体はあちこちが炭化し、辺りには肉が焼ける臭いが立ち込めた。最早物も云えなくなった妖怪は煙を上げながら横たわっている。妹紅はそんな哀れな姿を見て、目を細めた。そうしてまた「儚い」と云った。


 妖怪に敵と見なされたという事は、自分は人間なのだろうか。
 彼女の悩みはある方向へと傾き出した。

 

 

 

 

 

 

「これで少しは持つか」
「本当に少しの間だけだろうな。二人がかりであっても、流石に多勢に無勢だろう」


 沈み行く夕陽を見詰めて、人里の上空に佇む二人は物憂い瞳で遠くを見遣った。茜色に染まった空に藍色が懸かり、それが次第にこちらに向かって棚引いている。そこには千切れた雲しか見えないが、やがて妖怪達が来るだろう事は更に二人を不安にさせた。果たして守り切れるのだろうかと、同様の表情は沈鬱だった。


「――勘当されても、やっぱり大切なんだよな」


 魔理沙はそう呟いた。慧音はその横顔を見て、また視線を戻す。人里が、人間達を大切に思う彼女もまた、魔理沙と同じ思いを胸に秘めているのだ。最早そればかりが、二人を奮起させる理由だった。でなければ、迫りくる軍勢に対してあまりに心許ない。二人には決して負けられないという意思が必要である。


「必ず、守り切って見せるさ」


 眼下には淡い光の壁に包まれた人里がある。彼らはこの結界に気付いていない事だろう。静かな夜が訪れて、また何事もなく明日が訪れると思っているに違いない。此処を守ろうとしている者が居るとも知らず。……

 

 

 

 

 

 

 霊夢は木の下で横になっていた。これから本格的な戦いが訪れる。消耗した力はなるべく回復させなければならない。そういう意図の元に、暫しの急速に甘んじていた。


 大妖怪は既に去った。自分の命を狙う事に価値などない。それよりももっと力の強い妖怪と戦った方が余程有意義だと云って、霊夢を散々嘲笑ってから山の方へと向かって行った。彼女からすれば、今の幻想郷は自分の力を試すには絶好の機会なのだろう。霊夢は戦う相手にさえ選ばれなかった。ただそれだけの事なのに、霊夢は自分を不甲斐なく思った。


「――絶対、次こそは」


 苦戦するまい。そう彼女は自分に強く云い聞かせる。まだ戦いは始まったばかりなのだ。苦戦の連続では到底勝利など有り得ない。容赦を無くせ、必殺を心掛けろ、と心中で呟く。同情はするな、どんな理由があろうとも幻想郷を守る為には殺さねばならない。敵は敵としてだけ考えろ。思いやりなど必要ではない。


「――殺す」


 彼女は自分を自分でなくした。
 今この瞬間から、完全な博麗の巫女として在ろうと、心に決めたのである。

 

 

 

 

 

 


 幻想郷には次第に夜の帳が降りて来ている。酒を飲みながらあちこちを奔走する鬼は、もうじき本当の戦いが始まるなと思った。目の前には妖怪の山。彼女は最も危ない地に、近付いている。

 

 

 

 

 

 

 

――続

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