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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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11.02.17:24

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  • 11/02/17:24

10.08.00:28

幻想の詩―蓬莱の連―#1

東方SS三十一作目。
蓬莱の薬に手を出した面々で連載物。


飽くほどに繰り返された異常な日常。

 ――ああ、疲れた。
 彼女は腹部より本来生えるはずのない光の柱を生やしながら、そう思った。
 その拍子に口から血が溢れ出る。腹の皮膚を突き破り、肉を抉って、内臓を掻き回したその柱によって、追った傷は致命傷はおろか即死でも不思議ではないほどの破壊力を秘めていた。実際、その光柱を喰らった時に、彼女は死を悟っていた。kぽりと溢れる血の音を聞いている今も、もうすぐ死ぬのだと自覚している。けれども焦燥は微塵も湧き上がらなかった。ただ、心の中が空虚な空洞になってしまったかのように、何も感じぬまま、またかと呟いていた。


 朧げな視界の中に、彼女は満月を収めた。丁度仰向けに倒れて好かった。こうして空に注意を払うだけで満月を拝める。
 彼女の紅い目には白い満月が映った。しかし、細やかな彼女の愉しみさえ奪い取るように、黒い人影が真円を象っていた月を歪な物にしてしまった。三日月のような欠け落ちる事で美しさを醸す趣向とは違う。それは悪意によって歪んだ線である。そこに美しさなどあろうはずがない。それでも満月を背に不気味な笑みを湛えている女性は美しかった。


「今宵は随分と歯応えがないのね」


 距離は離れている。それこそ、大地と月のように離れている。なのに大地に横たわる彼女は、月より降り掛かるその声をしかと聞いた。嫌悪を感じるほど醜い声だ。例え万人がそれを認めなかろうと、自分に言い聞かせ続けてきた彼女は、しかし今では惰性的にその声を聞き取るのみで、如何なる感情も感じなかった。心の中が空になったようだ。比喩ではなく、彼女は心底そう思う。あれほど怨嗟した存在にすら、何も思っていないのだから。


「ただ、疲れただけよ」


 は、と小さく笑いながら、彼女は呟いた。当然の如く、空に浮かんだ女はそれに気付かない。ただ返事がないから、つまらなそうに眉根を下げて、見下した笑いを桜色の唇の隙間から落としただけである。そうして、このつまらない遊戯を終わらせる為に、手を掲げた。月の光に少しだけ亀裂が入る。大地に横たわった彼女は、疲れたともう一度呟いた。


 ――次の瞬間には、天より降りた光の雨が、彼女の命を奪い去っていた。

 

 

 

 

 

 

「決して人前に出てはならぬ」


 行燈の光に照らされた部屋の中で、厳かな雰囲気を纏った男は厳粛に云い放った。
 まだ五歳にも満たぬだろう。そう云われた少女は、不思議そうに目を丸くして、云われた事を繰り返した。
 しかし、そんな可愛らしい愛嬌のある少女に向かう男は、決して厳かな雰囲気を振り払う事はない。ただ云われた意味も大して判っていない少女に向かって、もう一度同じ言葉を繰り返す。少女は、漸く云われた事の意味を理解したのか、何故ですかと尋ねた。紅い瞳は男の顔を映している。世界にはこの人しか居ないのだと示すかのように。


「烏の濡れ黑羽が如き髪の毛は、風に靡いて人を招く為にあるのではない。黒曜石が如き瞳は、世界を映す為にあるのではない。白雪が如き肌は、他人の劣情を生む為にあるのではない。華奢な手足は歩く為にあるのではない。何かを掴む為にあるのではない。それらは全て磨く為にある。それでいて夢幻泡影だ。夢は幻だ。幻は見せる為にない。泡はすぐに弾ける。弾けたくなければ人前に出てはならぬ。影は踏み付ける為にある。好いか、決して人前に姿を現してはならぬ」


 幼い少女には男の云った意味が判らなかった。ただその男が、自分を他人に見せたくなくて、それが自分を想う故の利己心と解釈しただけである。無邪気な少女は、云われた通りにしますと云った。男は笑わなかった。

 

 


 妹紅は肌を刺すような寒さに耐え切れず、閉じていた目を開けた。
 下には柔らかな落ち葉が一面に敷いてある。視界は枝葉が成す天井の一部を切り取ったかのように、一部分しか見えない空を映している。何故こんな所で寝ているのだろうと、妹紅は自分を問い質した。


「ああ、昨日殺されたんだった」


 一人空に向かって呟くと、彼女は自分が此処で寝ている理由を思い出した。最早儀式のようになってしまった輝夜との殺し合いに負けて、復活してから帰るのも面倒だったから、眠ってしまったのだった。服はその影響によって最早原型を留めていない。真冬の最中、殆ど裸の状態で、寝て居れば寒いのも道理である。妹紅は自分の自堕落振りに甚だ呆れると、むくりと起き上がってまだ完全に覚醒に至らない頭で、どうしようかと考えた。


 自分の身体を見てみると、渇いた血が張り付いていた。それが動く度に少しずつ剥がれるからどうにも心持ちが悪い。彼女は血の固まった箇所を手で剥がしたが、彼女の身体から離れるのを拒むかのように、血は張り付いていた。無理に剥そうとすれば逆に皮膚が剥がれそうである。それも耐え難いと思った妹紅は、川へ向かう事にした。


「ついでに、慧音の所にも行くか」


 身体を洗った後の行動を決めて、妹紅は立ち上がる。そして大きく伸びをすると、重たい足を引きずって歩き出した。殺し合いに負けた後は何時もこうだ。復活しても、何処かに傷跡が残っているような心持ちがする。妹紅はそれでもつまらなそうな無表情を浮かべながら、歩いている。かつて感じていた敗北感は、今では虚無感へと成り果てていた。

 

 

 

――続

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