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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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  • 11/02/19:30

10.09.23:19

幻想の詩―蓬莱の連―#2

東方SS三十二作目。
蓬莱の薬に手を出した面々で連載物。


書に秘められた亡者の叫び。



「なんて恰好をしているんだ」


 戸を叩かれて、こんな朝から何用かと訝しみながら来訪者を目に入れた慧音は、裸同然で家の戸の前に立っている妹紅を見るや否や、叱咤した。けれども強い口調ではない。一種諦念のような響きが込められている。大方また輝夜と戦って来たのだろうと勝手に結論付けて、早々に家の中に招き入れた。


「取り敢えず、何か着ておけ。これでも好いか?」
「助かるよ」


 適当に箪笥の中から服を取り出して、妹紅に手渡すと、彼女は軽く笑ってそれを着始めた。白い布で作られた小掻巻は、家の中の温度と合わせると充分な温もりを与える。裸で寝ているんじゃなかったと、自分の行動を馬鹿馬鹿しく思いつつ、妹紅は自嘲気味な笑みを漏らした。慧音はお茶を淹れて来ると云ったきり、台所の方に消えている。手持ち無沙汰になってしまった妹紅は、目に付きやすい机を見付けると、そこに寄って、上に置いてある書物を眺め始めた。

 

 


 

 

 

「君見ずや、青海の頭、古来白骨人の収むる無し。新鬼は煩冤し旧鬼は哭し、天陰り雨湿うとき声啾啾たるを」


 開かれた項の中に、そんな一節があった。しかし、妹紅にはそれが何を示しているのだか、とんと判らない。元より書物を読んだ思い出など、遠い記憶の中に埋もれている。最近では読書の享楽も忘れてしまっている。それだから妹紅には、その句が何を示しているのだか判らない。もしかしたら案外簡単なのかも知れない。そんな事を思って、暫く綺麗な文字が並べられた項と睨みあっていたが、一向判りはしないので、とうとう諦めてしまった。


「読書か。珍しいな」


 ところへ、二人分の湯呑を盆に乗せて、慧音が戻ってきた。文の意味を咀嚼するのを諦めた直後だったので、読書していた事は知れていたらしい。妹紅は決まりが悪くなって、頭の後ろを掻きながらただの気紛れだと答えた。


「私には何の事なのか判らないよ。難しい事を云っているように思えるし、簡単な事を云っているようにも思える。でも結局何も判らない。判った感じだけ、先行しているだけよ。――慧音が読む本は難し過ぎる」


 妹紅の感想に苦笑を洩らしながら、慧音は湯呑を手渡し、自らも畳の上に座った。鮮やかな緑が湯呑の中で揺蕩っている。その中に、細かい茶の葉が浮いていて、それが大海を浮浪する小舟のようである。妹紅は何だか可笑しくなって、唇の端に笑みを浮かべた。慧音はそれに気付かず、一口熱いお茶を啜っていた。


「悲しい一節だ。浮かばれない魂が恨めしげに泣いている様を、実に刻薄に表現している。死した運命を恨んでいるのか、死んだ事実を悲しんでいるのか、それは判らないが、少なくとも好い意味でない事は確かだな」


 慧音の説明を傾聴していた妹紅はなるほどと呟いた。
 湯呑は両手に包まれている。湯呑の中の緑色は静寂を得ている。妹紅は何となく喉が渇いた気がしたので、お茶を一口啜った。普段はこの身体に尋常でない熱を感じて、それが皮膚を焼いても何の痛痒も与えなかったが、お茶は実に熱かった。あの高温に比べたら、こんな熱さなどぬるま湯にも匹敵しないというのに。


「で、今日はどうしたんだ。服を借りにきただけか?」
「まあ特にやりたい事もなくてね。何か手伝える事はある?」
「それなら、丁度好い。今日人里で大きな祭りが催される。もう少しで年も明けるから、この年に別れを告げる祭りらしい。何か好くない奴が来るかも判らないから、里の者を守る手伝いをしてくれないか」
「簡単だね。第一、私と慧音が居る所へわざわざ襲撃を掛けるような頭足らずが居るのかは甚だ疑問だけど」


 不死の身体を持つ故に、自分の強さには絶対の自信を持っている妹紅は強気である。ところへ慧音が加われば、慢心が生まれるのは必然であった。妹紅は軽々しく承ると、軽く笑って見せる。慧音はそうかも知れないがと云って、妹紅を諌めた。万が一の事態も起こらせたくないのだ。寺子屋に訪れる子供達の笑顔は、悲しみに曇ってはならない。妖怪の自分を受け入れてくれている里の者にも申し訳が立たない。故に慧音は、事故に責任を課していた。


「準備が万端なのは好い事だ。これを機に、里の者と触れ合ってみても好いだろう」
「それに対する返答は、少し考えさせて貰うよ」


 お返しとばかりに挙った提案に、妹紅は苦い顔をしながら首を振った。
 慧音は妹紅が里の物に近付かない事を知っている。顔を見せるくらいならば好いのだが、話をしたり、自分の事を尋ねられたりするとほとほと困ってしまう。今まで里に関する手伝いを何度かする事もあったが、子供達に話しかけられる度に苦笑を浮かべて、話を紛らわせる妹紅は、やはり壁を作っているのだと見える。慧音はそれをどうにかしたいと常々思っているが、当の本人にその気がないので、最近では軽く提案するのみである。


「それで、祭りは何時からなの?」
「夕暮れ時には始まるから、それまで此処でくつろいでいると好い」
「それは嬉しい申し出ね。遠慮なく、くつろがせて貰うよ」


 そう云った折り、窓の外を見てみると薄黒い緑色の竹が視界を覆っていた。此処は日当たりが悪い。人里からは少し離れている。慧音も何故こんな所に住むのかと疑問に思って、すぐにその疑問を打ち消した。
 その内に話題は本の中に移った。そこの言葉の奥が深いと頻りに議論したりした。長らく忘れていた、自分の持つ教養に驚かされつつも、こんな話も嫌いではないと妹紅は思った。

 

 


――続

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