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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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11.02.17:29

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  • 11/02/17:29

10.23.22:16

幻想の詩―蓬莱の連―#10

東方SS四十作目。
蓬莱の薬に手を出した面々で連載物。


鬼哭啾啾たる時が、夕陽と共に迫りくる。



 一行が人里に辿り着いた時、そこは世の地獄絵図を模したかのように思われた。
 外を出歩く人々の姿は見当たらず、片っ端から家の中を覗いてみると、そこには得体の知れぬ病魔に蝕まれて唸っている人がいる。次の家を見ても、その次の家を見ても、またその次の家を見ても、それは変わらない。床に伏せた人間は全て、降りかかる苦悶に耐えるべく、皆酷い顔をしていた。妹紅と慧音は、それを見て愕然とした。


 伝染病にしては、里の中に回るのが早過ぎる。今まで見付かった事のない病原体の所為かも知れないが、それにしてもこの変化は急過ぎであった。やがて妹紅や慧音は同様の疑惑を持つようになる。――現在の里の状況は、もしかしたら人為的にもたらされた災厄かも知れない。

 

 


 

 


「里の医師は」


 一通りの家を見て回った後、慧音は率先して団体を彼女の家へと連れてきた老人に向かって問うた。しかし、老人は悲しみに満ちた表情をして、首を振るばかりである。それは医師にも病魔の手が襲い掛かった事をありありと示唆していた。慧音はそれ以上の追及の必要も感じ得ず、ただ途方に暮れた。
 彼女は医学的な方面の知識について、多くを知り得ない。確かな形を持つ外敵から里の者を守る事は出来ても、形の定まらない病原菌を倒す事は出来ないのである。彼女の持つ能力を使おうとも、病原菌自体の解決にはなり得ない。そもそも病気にかかった事を無かった事にすれば、その人間まで消えてしまう事になる。未来と過去とは密接な関係を持っているのだから、それも必然であった。過去を消された人間に、未来は無いのである。


 故に、里の守り手として彼女に出来る事は今の時点で何も存在していなかった。
 そしてそれは、妹紅にしても同様である。二人はただ、まだ無事な里の人間から向けられる頼りの視線を、痛く受け取る事しか出来ずにいた。そしてそれが、彼女らの無力さを、克明に映し出しているのだ。


「一体どういう事なのかしら。この惨状は」


 そこへ、突然空から舞い降りた影があった。
 優雅に地に降り立ったその人は、博麗の巫女である。彼女は怪訝な目付きで慧音と妹紅を見据えながら、事の現状を尋ねた。が、そう尋ねられようとも、慧音と妹紅には見ての通りだと答えるより他の選択肢を見付けられなかった。


「今までで一番性質の悪い異変だわ」
「お前の勘は役に立っていないのか?」
「駄目ね。そもそも勘を頼りにしても仕方ないじゃない」
「……そうだな。だが、どうにかしなければならない」


 そうして双方共に押し黙る。妹紅は二人の会話を聞いている。聞きながら何か対策はないか、この惨状をもたらした元凶は何なのか、思案してみたが、何一つ手がかりがない状態では元より要領の得ない行為であった。


「永遠亭は? あそこの連中なら何とかしてくれると思うけど」
「そう思って里の者が何人か出向いたらしいが、竹林で迷ってしまって行けずじまいだそうだ」
「竹林の小賢しい案内兎はどうしたの」
「居なかったらしい。だとすれば、普通の人間では辿り付けないだろうな」


 三人に中の猜疑心は、段々と永遠亭に集まってきた。
 病気に罹った者がいれば、永遠亭に話を持ちかければすぐに解決出来るのだが、今回そうならなかったのは何らかの意図があるに違いないと考えて、元凶は永遠亭にあるのではないかと疑ったのである。原因の全く判らない病気が、あらゆる薬の知識を持つ女によってもたらされたというのならば、合点が付く。


「でも、なんでこんな幻想郷中を的に回すような事をしたのかしら」
「八雲の者はどうしている?」
「冬眠中。何とも間が悪いわね」
「あちらにとっては、好都合というわけか」
「そうね。事件を比較的楽に起こすには絶好の機会だもの」
「すると、行かねばならないな」
「行かなければならないわね」


 慧音と霊夢の中では既に結論が出ていた。
 元より生物の波長を狂わせて迷子とさせてしまう妖怪が棲む永遠亭は、この事件の犯行を行うには充分過ぎる人員を備えている。病魔の解決策を模索するよりも、元凶を叩いた方が幾ら早いか判らない。二人は、永遠亭への来訪を決心した。一度越えられた壁ならば、また越える事も出来よう。例え知覚を狂わされようと、大丈夫かも知れない。


「じゃあ私が行くわ。異変の解決は巫女の仕事だしね」
「一人では荷が重い。前は八雲と一緒だっただろう」
「それじゃ、私が一緒に行こう。不死の人間が付いていれば多少は楽だ」


 そこで、漸く妹紅は発言の場を得た。
 もしも永遠亭がこの異変の元凶というのならば、――そして殊にそれが、輝夜の意思に基づいたものならば、許すまじ所業である。その上彼女には他の理由を上乗せする事が出来た。低迷している自分の生き方にも結論を付けられるかも知れない。そんな打算を持って、妹紅は異変解決の手伝いに立候補したのだ。


「肝試しの時とは、全く変わったものね」
「お互い様よ。私だってこれが続いて死人が出れば好い気持ちはしない」
「それじゃ、行きましょうか。今度は肝試しとは違うわよ」
「承知の上さ。尤も、不死という点で云えば、これも肝試しなのかも知れないけど」


 まあ懲らしめる事ぐらいは出来るわよと、霊夢は軽い調子で云って、空に舞い上がった。それを見て、妹紅は慧音への挨拶もそこそこに、その後を追う。慧音は里の混乱を少しでも防ぐために無くてはならない存在だったから、この場を離れる訳には行かない。彼女は彼女で、大変な責務を負っている。
 やがて、里の中に蔓延する恐怖はまた暫く続く事になった。
 誰もが好い報告を心待ちにした。人里に大きく貢献してくれていた永遠亭が元凶ならばどんなに好いものかと誰もが考えていた。そうすれば、彼女達が解決してくれると信じて疑わなかったのだ。


 ――しかし、夕方になって戻ってきた二人の報告は、人々に絶望をもたらす結果となった。
 二人は何時間もかけて竹林の中を捜索したが、あの大きな屋敷の片鱗さえ見付ける事は出来なかったのである。犯人は殆ど確定した。だがその犯人が身を隠しているとなれば、異変を解決する為の手段も隠れる事になる。見付けなければ意味はなかったのだ。彼女達は、里の者の力にはなれなかった。


 ――そして夕方には、慧音の家に赴いた人間も、とうとう床に伏せった。
 実に里の九割以上が、この時点で病気にやられた事になる。
 人間である妹紅や霊夢にもその内それが来るかも知れない。
 里は、生気を失ったかのように、赤い赤い夕陽に照らされながら、佇んでいた。

 

 

 

 

 

――続
 

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