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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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11.02.15:34

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  • 11/02/15:34

10.24.00:46

幻想の詩―蓬莱の連―#11

東方SS四十一作目。
蓬莱の薬に手を出した面々で連載物。


姫君の微笑は彼女に何を与え、何を奪い取ったのか。

 草木も眠りに就く丑三つ時、妹紅は例の場所を目指して歩いていた。
 周りはどんなに小さな音でも聞こえそうな静寂に包まれている。風さえ今は凪いでいた。秋の夜を心地の好い音色で彩る虫達の鳴き声も、聞こえない。まるで全ての生物が眠っているかのようだ、妹紅はそんな事を思う。


 里が謎の病に侵略されてから、とうとうその状況を打開する好い案は浮かばなかった。けれども里は混乱に包まれていない。殆どが病魔にやられ、混乱する暇もなく呻吟する羽目になったからである。この静けさはそれに関連があるのだろう。夜が更けて、何も出来ずに一旦各自で妙案を考えようと結論を出し、この竹林へ戻ってくる際、里は既に沈黙していた。妹紅はその光景を思い出すと、胸が締め付けられるようになる。この静けさも、却って彼女を焦燥に駆らせた。


 だが、だからこそ例の場所を赴く気になったのだろうと、同時に思った。輝夜との殺し合いをしている間は、虚ろな徒労ばかりを感じているが、その代りに他の事を考える余裕がない。生きるも死ぬも、彼女にとっては大して変わらないが、無意識の内に身体は最低限の抵抗をする。その抵抗があるから、妹紅は今日まで低迷していた。
 が、事件の元凶であるのに疑いの余地のなくなった今、妹紅には自分を奮起させるべき理由を得た。もしも本当に永遠亭の連中が犯人だというのなら、妹紅は放って置く事が出来ない。だから、今の時点で最も遭遇の確立が高いあの場所へ、妹紅は赴いている。さながら肝試しのようだと、妹紅は自分の身を顧みてから考えた。

 

 


 

 


 彼女の足は、他とは明らかに違った大地を踏みしめた。
 黒い土が剥き出しになり、回数すら数えられなくなった戦いの跡が、刻まれている。無論天に聳える竹もない。そこから空を見上げても、煌々と瞬く星々と、大きな月が見えるばかりである。


「……出て来い」


 妹紅はそんな中、誰も居ない空間で、目に見えぬ者を睥睨するように、強く云った。依然として周囲は静寂に包まれている。だがその静寂は間もなく打ち破られた。何時の間にか、妹紅の後ろには不敵な笑みを湛えて口元を押さえている、輝夜の姿がある。彼女は面白い物でも見たように、くすくすと笑い声を立てていた。


「判ったのね」
「百年や二百年の付き合いでもない」
「私の気配はお見通しって訳ね」


 後ろを振り返った妹紅は、無益な戦いを繰り返す自分達を皮肉るように云ったつもりであったが、輝夜にそれは通じなかったと見えて、彼女は相変わらず不敵に唇の端を持ち上げて、笑っていた。それが何もかもを筋書き通りに運んだ策士の勝利の微笑みのように思えて、妹紅は自分が憤るのを感じている。一刻も早く事の真相を確かめて、解決したくなったが、逸れば輝夜を楽しませるだけであると判っていたので、すぐに本題を持ち出す真似はしなかった。


「お前が何処に居ようと見付けだして殺すさ」
「ところで、里の皆様はどうしたのかしら。それが理由で此処に来たんじゃなくて?」


 輝夜はさも可笑しそうに笑っている。妹紅の話に耳を傾ける様子は少しもない。自分の好きな時に話題を転じる。しかもその話題は的確である。妹紅は羞恥を感じる前に、確信犯めいたこの女に憎悪を抱いた。それが何故か、新鮮に思える。尤も、清々しい物ではない。むしろ禍々しいくらいである。しかし、妹紅が感じた憎悪は、初めて感じた憎悪のように思えたのだ。輝夜を憎まなかった日などありはしないと思っていた妹紅にとって、それは不思議な感覚であった。


「やっぱりお前がやったのね」
「正確には私じゃないわ。私はただ頼んだだけ」
「同じ事。お前はこれから、それを撤回しに行かなければならない」
「あらどうして。私は貴方の為を思って永琳に頼んだのに」
「何だって?」


 鋭くなった妹紅の眼差しを受けて、輝夜は一拍の間を置くと、当然の事を云うような調子で、云った。


「だって貴方、お父様の為に私を殺そうとしているんでしょう」


 風は凪いでいる。足元を照らすのは白い月光以外にない。静寂ばかりが感じられる。殊に輝夜の言葉が静寂に拍車をかけている。妹紅は自分の頭の中が驚くほど冷やかに、そして真赤になるのを感じた。輝夜は黙りこくった妹紅を見て、もう一度「お父様」と云うと失笑して見せる。そうして平生感じていた憎悪が一瞬にして妹紅の中に舞い降りた。


「里の為に生きるなんて、今更する事ないじゃない。貴方は何時もの通り私を殺そうとすれば好いのよ。それが目的で、望んでいやしない蓬莱の薬に手を出して、焔を操る術を手に入れて、幾星霜を生き続け、したくもない妖怪退治を始めて、漸く私を見つけて殺そうとして。――全部、お父様の為なんでしょう。だったら里にうつつを抜かしていては駄目よ。全力で私を殺しに来なくちゃ。それとも忘れてしまったのかしら。私が晒せるだけの生き恥を貴方のお父様に晒させて、自殺まで追い込んだ事を。あれは傑作だったわ。私に振られて命を断つなんて、永遠の能力を持つ私からしたらとても愉快。私から見れば羽虫の如き生命も、足掻けば滑稽で面白いのにね」


 にやにやと輝夜は笑う。
 妹紅の奥歯はぎりと鳴った。
 やがて背から焔の翼が現れる。
 一際嬉しそうに笑った輝夜を見て、妹紅は既に符を手にしていた。
 そうしてその時には、不毛な戦いが幕を開けていた。

 

 

 

――続

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