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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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11.02.15:22

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  • 11/02/15:22

09.20.01:29

幻想の詩―神と風祝の連―#2

東方SS十七作目。
守矢神社の面々で連載物。
※鬱要素あり。
 

まるで仄暗い穴に潜むが如く。



 不安が無い訳ではではなかった。
 失われて行く信仰が、次第に彼女らの存在を危うくしている事にも気付いていた。だが、それは例えどんなに微かな変化だろうと、表してはならないと各々が感じていた。ただでさえ現代では疎まれる存在になりつつある風祝の早苗に、余計な心配事を増やす訳には行かなかったのだ。


 何の音沙汰もなく、ある日の白昼夢の如く消えてしまえば早苗が悲しむ事などは言葉にせずとも判っていたが、それでも二人はその事実を伝えようとはしなかった。
 相談どころか、それについての言葉も交わしていない二人は、しかし互いの心中が手に取るように見えていた。卑怯な手段だとは心得ていたかも知れない。だが、小さな言訳だけは残したかったのだ。――悲しませたくなかった。消えてしまえば伝える事も叶わぬその言葉に、どうか彼女が気付いてくれるのを願って。


 二人は自身の存在がもうすぐ消える事を熟知していた。
 だから、早苗が行う祭祀の舞を見れるのも今年が最後だと、判っていた。

 

 


 

 


「ただ今帰りました」


 空が茜色に染まる時分、玄関の戸が開けられると同時に早苗の声が廊下に響く。丁度玄関近くに居合わせた神奈子は、それを聞き付けて、早苗の元へと足を向けた。


「お帰り。最近、帰りが遅いのね」


 以前は、空の青味が失われる前には帰って来ていたので、ふと気になった疑問を早苗に尋ねると、彼女は靴を脱ぎ終わった後に一拍の間を置いて、笑顔と共に答えを返す。


「少し学校でする事があるので、前よりは遅くなってしまうんです」


 その笑顔を見て、神奈子は昨夜諏訪子に漏らした心配事は、やはり杞憂だったのだ、と小さな安寧を得た。こうして明るい表情を浮かべる人間に、心配する事など無い。諏訪子に諭されたように、考え過ぎては嫌な方ばかりに傾いて行ってしまう。諏訪子に諭されたと云うのが多少癪に障るが、早苗の顔を見ればそのような事も頭の片隅に追い遣られてしまった。神奈子はそうなの、と云って、柔らかな微笑を早苗に向けた。


「今から祭祀の練習?」
「はい。着替えたらすぐに」
「そう、頑張ってね。私も、祭りは楽しみにしているわ」
「ふふ、期待に添えられるように、頑張りますね」


 嬉しそうに微笑んで、早苗は自分の部屋の方へと向かう。
 そして、彼女が二三歩ばかり足を進めた辺りで、神奈子は思い出したように、「あ」と声を上げた。早苗が歩く度に鳴る廊下の軋む音がぴたりと止んだ。神奈子の方へ振り向いた早苗の顔には、どうしたんですか、と云う質問を表したかのような表情がある。それを受けて、神奈子は云おうと思っていた事を口にした。


「しっかり、休む時は休むのよ。身体を壊したら本末転倒なんだから」


 何の変哲もない、自分の身を案じるその言葉がは、早苗には染み渡ったのだろう。彼女は先刻よりも嬉しそうに微笑み、大きくはいと頷いて見せて、心なしか軽くなった足取りで自分の部屋へと向かって行った。神奈子も満足したように軽く息を吐いて、その場を後にする。――祭りが楽しみだ。その気持ちが膨らんでいた。


 ふと、神奈子は自分の部屋へと向かう早苗の後姿に見慣れぬ物を見た気がして、それがどんな物であったかを思い出そうとした。瑞々しい若葉の緑を彷彿させる髪の毛に隠された首筋に、何かがあった。だが、それを明瞭に思い出そうとして見ても、意識して見ていなかっただけに霞みが掛かったようにぼやけてしまう。何か黒い物があったと云う事だけは判るのだが、それも影の加減によって見えた錯覚だろう。そう結論付けて、神奈子はその場を後にした。


 早苗の調子は好さそうである。
 自分にとって最後になるだろう、今度の祭司は待ち遠しくもあったが、逆に悲しくもある。それでも最大の賛辞を送ってあげようと心に決めて、神奈子は庭を一望できる縁側に腰掛けながら、過ぎ行く時に想いを馳せた。或いは、過ぎた時に想いを馳せたのかも知れない。存在が消えるという事は、自分にとっての全てを失うという事だから。

 

 

 

「……っ」


 白い背中が蛍光灯に照らされて、殊更に白く浮かび上がる。襖を閉じて、椅子に腰掛けながら着ていた制服を脱ぎ、早苗は苦痛に表情を歪めた。そして手を自分のうなじに当て、少しだけ力を入れて押してみた。すると、鈍い痛みが波紋を広げるように身体を襲う。早苗は強く歯を噛み締めて、その痛みに耐えた。


 その内にうなじを押さえていた早苗の華奢な手は、胸を覆う下着の上を通り、腹部へと渡る。へその上辺りに、青黒い痣が出来ている。丁度早苗の拳と同じ程度の大きさの痣が、その近辺にもう二つほど出来ていた。早苗はそこにも手を当てて軽く押してみたが、やはり鈍い痛みが差すばかりである。


 ――何故だろう。
 心中に呟かれた儚げな自問は、誰にも聞こえる事はない。
 ただ、鈍い痛みばかりが身体を支配している中に、昼間の光景が思い出される。早苗はもう一度苦悶の表情を浮かべると、唇を噛んで静かに涙を流した。透明な雫が頬を伝い、蛍光灯の光に煌めいた。

 

 


――続


結構重い話しになる予定です。
苦手な人は回避する事を強く推奨します。
 

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