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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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11.02.15:32

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  • 11/02/15:32

11.27.18:49

幻想郷大戦#12

東方SS六十一作目。
たまには激しく戦闘物。


所詮は刹那。永遠の前に霞んで消えてしまう物。

 深い深い竹林の果て、迷っても迷っても行き着けぬ家がある。
 詐欺師に会えば僥倖、竹林に潜む人間に会えば尚幸福である。詐欺師は狡猾だ。案内を求めるには相応の代償を要求される事であろう。


 そんな物静かな竹林の中に住むは永遠の住人。禁じられしパンドラの箱を開いた咎人達。付き添うのは月より逃げた臆病な兎が一匹、卑怯な詐欺師の兎がもう一匹。そうして沢山の兎達。


 まるでお伽噺のようなその場所へ訪れるのなら注意した方が好い。
 そこに住まうお姫様は、とてもとても気紛れなのだ。機嫌を損なえば例えどんなに儚い時間でも、その無聊を慰めさせようとするかも知れない。付き人が用意するどんな効能があるかも判らない薬を飲まされて。


 そこはそんなお伽噺のような場所。
 病人ならば歓迎されるやも知れぬ。
 健康ならばどうなるかは判らない。
 そこはそんな気紛れな場所。
 訪れるのなら注意した方が好い。
 住人は気紛れなのだ。その時次第で命は無いかも知れない。


 ――そこに訪れる小さな鬼が一人、酒を片手に戸を叩く。

 

 

 

 

 

 

「歓迎するわ。小さな鬼さん。此処のお酒がお口に合うかは判らないけれど」


 艶やかな黒髪を畳に枝垂れさせた、妖艶な美貌の持ち主である姫はそう云って盃に酒を注いだ。対面に胡坐を掻く鬼は、お構いなくと云いながら注がれた酒を一口、喉に流し込む。「好い酒だ」そう云って軽く笑った。


「それで今日は何用で?」


 穏やかな笑みは仮初の物だろう。伊吹萃香はまるで能面のような笑みを張り付ける美しい姫君の顔を見ながらそんな事を思う。歓迎すると云いながら、内心では早く要件を話せとでも思っているに違いない。けれども萃香は何とも云わず、仄かに色付いた頬を一摩り、真剣な物言いで話し始めた。


「今の状況を知ってるかい」
「ええ、知ってるわ。何やら人間達は大変なようだけど」
「それなら話は早い。私は協力を頼みに此処へ来た」
「脆弱な人間達を救って欲しいのでしょう」
「そうだよ。人間はあまりに脆い。その身一つじゃ自分すら守れない」
「あははは。どちらかと云えば私達だって人間の敵になる存在じゃないのかしら?」


 姫君は声高らかに笑う。口元に手を当てて、上品に振舞っている。萃香はその仕草も形式だけだろうと思った。彼の女は上品に過ごすような者には見えない。とことん演技が上手い。萃香は内心あははと笑いながら、そう思った。


「そうに違いないね。でもそれも承知で私は此処へ来たんだよ」
「知っていて何故そんな無駄な事をするの? よほど藁にも縋る思いなのね」


 皮肉を一つ、姫君は楽しそうに笑う。萃香の様子が、人間達の危機が、楽しくて仕様がないという様子である。けれども萃香は別段気分を害する事はなかった。妖怪の立場でありながら人間に与する自分は確かに滑稽なのだろうと自覚を持っていたし、実際人間が貧弱なのは自然の理である。多少の力を持っている者でも、妖怪が束になれば到底叶わないだろう。博麗の巫女ほどの力を持つのならばともかく、そんな人間は居はしない。


「無駄な事ではないさ。――あんたらが退屈しているのは知れているんだよ」
「面白い世迷い言。退屈なのは確かだけれど、それが人間に味方する理由にはならないわ」
「そうかい。じゃあ例え話をしよう」
「出来るだけ面白い話にして欲しいものね」


 ちりちりと、大気が震えたような心持ちがした。萃香の不敵な笑みが姫君の機嫌を損ねたのかも知れない。彼女ほど余裕を持つ者はそうは居ない。しかし萃香は尚余裕そうである。まるで何も心配事がないような風である。対して姫君は退屈していると述べてしまった。彼女の矜持はそんな些細な事でさえ欠損する。


「よしじゃあ、人間に味方しないとして、殺戮の限りを尽くしたとしよう」
「哀れな話ね。きっと何も出来ずに全員死ぬわ」
「その通り。あんたがやれば、まあ半日も掛からないだろうさ」
「一刻も経たないんじゃないかしら」
「そうかも知れない。でも、そんな一瞬の戯れが楽しいかと云えば」
「有り得ない話ね。何より醜い。人間達を殺して私達が得る物なんて何もないわ」


 にやりと萃香は笑う。対して姫君は先刻の穏やかな表情とは打って変わって、憮然とした表情である。無機質なその顔は確かに不愉快を表している。萃香には実に都合が好い。盃をまた仰いで、萃香は熱い溜息を吐き出した。新たな酒を、姫君が盃へ注ぐ。話はまた始まった。


「それなら何にもしないのはどうだろう。妖怪と人間が争うのを、この場所で眺めるだけ」
「つまらない話だわ。他人が争おうと私達には何も関係がないもの」
「そうだろうね。それじゃ最後だ。――人間に味方したらどうなる?」


 萃香はにやにやとまた笑った。姫君はやはり不機嫌そうである。
 その内、暫し逡巡した後に、姫君はくっ、と笑った。そうしてあははと笑い出した。目尻から涙が浮かぶほど笑って、萃香のにやにやとした目を最後に見て、口元に手を当てた。けれども、常人ならば慄然として身動き一つさえ取れないだろう迫力が、萃香を見る瞳にあった。彼女の後ろの襖の向こうで物音がする。


「決して弱くない妖怪と戦える、と」
「その通り。時間もかかれば疲労も溜まる。毎日退屈する日々よりもよほど興奮するかも知れない」
「あははは。口の上手い鬼さんだわ。そうして私達を利用しようとして」
「どうでも構わないさ。私は嘘が嫌いだからね。否定はしない」
「ふふ、全く面白い話ね。――そうね、妖怪達を蹴散らす方が、人間を縊るよりよほど楽しいでしょう」


 姫君はまた楽しそうに笑った。萃香は盃を仰ぐ。庭先で地面を突いていた鳥が、一斉に飛び立った。


「永琳、永琳。少し此処へ来て頂戴」


 姫君は後ろの襖に向かって声を上げる。すると間もなくその襖より、長い銀色の髪を束ねた女が唯々として姿を現した。そうして強い視線で萃香を一寸見遣ると、姫君に向かって「何でしょう」と云った。


「面白い話が聞けたわ。貴方も聞いていたんじゃなくって? どう思うかしら」
「私達からすれば所詮戯れ。姫のお思いのままになされば宜しいかと」
「そうね。私達からすれば刹那の戯れ。企みに乗るのもまた一興」


 姫君はそうして萃香を見遣る。不敵な笑みを口端に浮かべ、本来の余裕の表情を浮かべ、それはそれは楽しそうにしながら。図らずも萃香は背筋に冷たい感覚が走るのを感じた。永遠の住人はかくも異常な雰囲気を醸し出すのかと、驚嘆を心の内に露わにした。久遠の苦輪は決して生易しいものではないと、自己の内で考えを改めた。


「乗りましょう、その話。例え須臾でも私を楽しませてくれるなら」
「感謝するよ、永遠の姫君。決して退屈はさせないと約束しよう」


 くくと、どちらからともなく二人は笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

――続

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