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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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11.02.15:22

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  • 11/02/15:22

11.28.19:49

幻想郷大戦#13

東方SS六十二作目。
たまには激しく戦闘物。


彼女が生きる世界は狭い。しかし広がる可能性を持っている。

 場所は変わって竹林の何処か。何処に住んでいるのやら一人の女が狭い空を見上げている。哀愁を秘めたるその瞳は何を考えているのか、他人には判るまい。彼女は知っている。傷付く事の恐ろしさを知っている。


 ふと彼女の前にある一本の竹に蟻が一匹歩いている。こんな所に餌はないのに、何故こんな無駄な徒労を重ねるのだと彼女は思う。けれども蟻は何も考えていないかのように、無心に竹を上り続ける。その内彼女は自身の手を前に翳す。手の平が向いた場所には未だ上を目指して登り続ける蟻が一匹。


 瞬間、赤い焔がぼうと現れたかと思うと、緑色の竹を黒く焦がした。彼女の前で必死に竹を登っていた蟻は跡形もなく消え失せて、女は一人「儚いな」と呟いた。まるで人間のようだ。燃やせば死に、潰せば死に、消滅は即ち死となり。


 そうして思う。自分は一体何なのかと。
 燃やされれば熱さに悶えて、しかし死なず。
 潰されれば内臓を露出しても、しかし死なず。
 消滅させられても、――消滅させられたらどうなるか判らない。


 ああ、それでも自分は何処かで生き返るのだろう。永遠という運命に縛られれば永劫逃れる術はないのだ。今までもそうだった。死に塗れた幾星霜、耐え難い痛みは何度も経験した。けれどもそれでも自分は生きている。否、ともすれば死んでいるのかも知れない。死が無ければ生者にはならない。そうして生が無ければ死とはならない。畢竟自分は曖昧な存在なのだ。生者でも死者でもなく、自らの存在の線引きを付けられぬのだ。


 女はまた狭い空を見上げた。
 そうして「儚いな」と呟いて、自分の手を燃やしてみた。
 熱い、けれども皮膚は新たに形成される。
 肉の焦げた匂いが風に吹かれて行った。


 ――そんな女を訪ねる鬼が一人、酒を片手に呼び掛ける。

 

 

 

 

 

 

「何の用? まさか肝試しとは云うまいね」


 風に靡く銀の髪の毛を一撫で、背後に居る萃香を見もせずに彼女は尋ねる。哀れな不死人の感覚は、既に人間を超越している。焼けた肉の匂いが萃香の鼻孔を撫でる。嫌な匂いだ、酒のつまみにもなりはしない。萃香はそう思う。


「もうすぐ夕暮れのこの時分、肝試しには些か物足りないよ」
「それならどうして此処へ? 迷い人でもあるのなら案内してあげるけど」
「生憎私に案内は必要ない。それは承知の事だと思うけど」
「ふん、珍しい。ならそろそろ要件を話して貰いましょうか」


 そう云って女は漸く後ろを振り向いた。そこには瓢箪を口に当てて酒を飲み下している鬼が居る。此処には酒のつまみも無ければ、上等な酒も無い。あるのは高く伸びた竹と、湿った土の匂いだけである。


「話は聞いたかい」
「隙間妖怪が出したお触れの事?」
「そう。やっぱりあんたの所にも来ているみたいだね」
「来たけれど、私には関係のない事ね」


 然程の興味も見せずに、女は前に向き直る。焦げた竹がある。女は不愉快な面持ちになって、一歩萃香から遠ざかった。ところへ、萃香はまた話し始める。


「単刀直入に云おうか。私達に力を貸して欲しい」


 女はそれを聞いて足を止めた。そうして後ろを振り向き、微醺を帯びた頬をしている萃香を見据えて、つまらなそうに「ふうん」と云った。が、身体は全て萃香の方へ向く。彼の女には萃香の依頼が興味を与えたと見える。


「鬼であるお前が何を頼みに来たのかしら」
「何も私自身に協力して欲しい訳じゃない。人間を守って欲しいと思ってね」
「それなら尚変ね。妖怪のお前が人間を守って欲しいだなんて」
「どうでも構わないさ。ただ依頼を受けて欲しいのは本当だよ」


 女はそれで一度黙った。あの隙間妖怪の言葉を聞いた時から考えていた自分の存在についての問題が、此処に来て萃香の依頼に影響していた。妖怪でもなく人間でもない自分は、どちら側に付いても不自然なだけだと思ったし、何より人間は自分を恐れる。死なない人間だと気味悪く思い、人間の持ち得ない力を目にすれば畏怖の眼差しを向ける。そうして自分との差異を認めては迫害する。彼女は人間のそういう汚さを知っていた。


「私がそんな頼みを受けるとでも思ったの?」
「別に確信なんて持ってない。事の是非を図っただけで」
「それなら早く立ち去る事ね。私には関係のない事よ」
「そうかい。それなら最後に一つだけ、尋ねてみたい事がある」


 萃香は交渉が決裂した事に頓着する様子もなく、普段と変わらない調子でそう云った。女は少々呆気に取られたのか、心持ち目を丸くして萃香を見た。そうして顎で云えと示した。


「人間に味方しないとして、妖怪側に入る気は」
「云ったはず。――私には関係のない事よ」


 萃香はまたそうかいと云った。そうして用は済んだと云って、女に背を向けて歩き出した。此処から空へ飛び立つには笹が邪魔をする。それがすぐに飛ばなかった理由なのだろう。
 そして女も背を向けた。二人の距離は段々と遠ざかる。ところへ、萃香が声を張り上げた。


「一つだけ云っとくよ。今のところ人里を守ろうとする者は二人だけ。あんたも好く知っている奴だ。妖怪は必ず人里に襲撃を掛ける。なんたって好きなだけ人間を喰らえる上に、博麗の巫女を炙り出して自分の強さを示す絶好の機会さ。そうならない道理がない。――そしてその結果がどうなるか、考えるにも足らない事だね。それだけ覚えておいて欲しい」


 そうして鬼は竹林の奥へと消えた。女は暫くその場に止まっていたが、やがて止まっていた時計の針が漸く動き出したかのように歩き出した。湿った土と竹の匂いが充満する竹林の中、悩み悩んで悩み抜いて、それでも自己の定義を付けるには至らない。彼女は呟く。本当に儚いのはもしかしたら自分なのではないのかと。


 何故なら、彼女は彼女足り得る証拠を持たないからである。
 しかし現実は既に彼女を定義している。
 懊悩や煩悶に苦しむのは、人間だけなのだ。
 彼女はそれに気付いていない。
 見上げれば狭い空がある。
 ――彼女の世界はその空のように狭苦しい。

 

 

 

 

 

 

 

――続

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