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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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11.02.19:31

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  • 11/02/19:31

11.10.19:30

幻想郷大戦#4

東方SS四十八作目。
たまには激しく戦闘物。



まるでそれは諸行無常の響きのように。



 そこにあるのは、今までに見もしなかった恐ろしい光景だった。
 濃霧の立ち込める博麗神社には、二人の人間だけが辺りを見回しながら立ち尽くしている。そうして一歩も動きはしない。否、動いては行けないのだ。針も札も、魔力を収束させた光刃も、ことごとく濃霧を切り裂くばかりで、手応えを感じる事はない。無数の粒子に棒を振れば、何の感触も得られない。二人はそれを続けているだけである。その濃霧は、確かに倒すべき相手であるはずにも関わらず、意思を持つ粒子は決して消えはしない。


 右を向けば左から殴られて。
 ならば左と振り返れば右から蹴られ。
 そうして濃霧は収束と拡散を繰り返す。
 ――無になりて調和をもたらし自身へ至る。
 その循環が存在する限り、二人に勝ち目はなかった。


 ――百鬼夜行。
 その言葉を思い出して、立ち尽くしている人間の内、一方が心中に皮肉めいた笑みを零す。
 何が百鬼夜行だと云うのだろうか。
 これではまるで、無限の鬼が通って行くようではないか。
 戦局は、絶望的だった。

 

 

 


 

 

 

 

「まだ行けそう?」
「まだ行けるが、時間の問題だ」


 背中をぴたりと合わせながら、霊夢は魔理沙に尋ねた。が、返ってきた言葉は到底心を軽くしてくれるものではない。むしろ、却って心を重くさせる。時間の問題とは即ち打開策がない事を意味している。本来聞くべきではない疑問を敢えて尋ねたのは、霊夢にも打開策が無かった事を示唆しているのに他ならない。二人は四面楚歌の状態でその場に立ち尽くし続けるより他に何も出来なかった。それを歯痒く思う間もなく。
 ところへ、

「――何だい何だい。大きな口を叩いても所詮はその程度。所詮は人間、妖怪には勝てませんって事かしら?」


 卒然として萃香の姿が現れる。背中を合わせた霊夢と魔理沙の頭上で腕を組みながら、弱いと相手を威圧するように、そしてそれに相当する実力を自負しているかのように。しかし、揺るぎない自信に満ち満ちている萃香の表情は決して笑んでいない。荘厳な面持ちで、不甲斐ない二人を叱咤するが如く、見下ろしている。


 霊夢と魔理沙は頭上から萃香の声が降ってくるなり、互いに逆の方向へ飛びずさった。萃香は動かない。二人に挟まれる不利な形になろうとも、その場に浮いている。元より攻撃を打ち込む隙が、そこにはない。


「……あんたらしくない戦い方ね。不意打ちばかりだなんて」
「真正面からぶつからないのは鬼の戦法だったか? 恐れ入るぜ」


 二人はそう云った後、また見失ってはいけない姿を見失った。忽然として霧に紛れた萃香は、今度は二人を結ぶ線を底辺とする三角形の頂点に立っている。そうして、余裕を感じさせる訳でもない笑みを、不気味にその唇に象っている。
 二人は挑発など無駄な行為だと悟らずにはいられなかった。どうした事か判らないが、これは本気を出し合わなければならない戦い――殺し合いと称されるべき戦闘なのだ。死ねば敗者、殺せば勝者。それが判らぬほど、頭が足りていない訳でもなかった。


「不意打ち。不意打ちと云ったね。真正面からぶつかってこないと云ったね」


 ざり、と地と靴とが擦れる音が、静謐な境内に大きく響く。二人の頬には一筋の汗が伝い、顎に至って地面に落ちた。果たして後退したのは誰だったのか、それは語るべくもない。萃香から滲みだす殺意、そしてそれに比例する力の奔流は、二人を圧倒するには充分過ぎた。故に二人は足元に印を刻む。確かに後退した証として、一歩分の靴跡を。


「まだ楽園の中にいるつもりなの、博麗霊夢。これが今までの弾幕ごっこと同じなの、霧雨魔理沙。――違う。あんた達は判っているはずだ。これが殺し合いで、殺し合いである限り不意打ちなんてのは常套手段だってね。好く云うじゃない。喧嘩に卑怯も糞もない。その延長線上もまた然り、ってね」


 酔いの片鱗さえ見付からぬその顔は、最早霊夢と魔理沙の知る萃香の姿ではない。戦闘に飢えた鬼の、真の姿である。二人は息を呑んだ。背後に恐るべき豪鬼が存在するかのような威圧感は、周囲の空気を一瞬にして凍らせている。


 ――判っていない訳ではなかった。今朝の妖怪達の襲撃で疑惑を持ち、萃香の襲撃で確信を得たはずであった。けれども、本気になった敵が、かつて親しかった萃香が、目の前に対峙しているだけで、こんなにも心が揺らぐ物なのかと霊夢は思う。殊に魔理沙は現状の把握に難儀しただろう。襲撃をされた訳でもなく、宴会好きで気さくな酒豪だった萃香が、明らかなる敵として自分達を殺そうとしているのだから。


「ただ、能力の差があるのは仕方がない。種族の差も大きい」
「……で、どうするんだ? 手加減でもしてくれるってんなら喜んで受け取ってやる」
「手加減ほど恥晒しな事はないよ。だからあんたが云った通り、真正面からぶつかってやろうじゃないか」


 その言葉。甘い響きを伴ったしたたかな言葉は、霊夢と魔理沙には慢心の表れだと感じられたに違いない。けれども決してそんな事は起こり得なかった。既に萃香の手には、一枚の札が掲げられている。慢心など萃香からすれば、それを期待する事自体が愚かしいのである。――霊夢と魔理沙は、血相を瞬時に変えた。


「酔符、鬼縛りの術」
「なっ――」


 それは回避の猶予を充分に与えた宣言である。そして二人には回避を行えるだけの実力がある。にも関わらず、その宣言を指を咥えて眺めていたとなれば、結果は必然起こり得るものである。事態を飲み込み、空中へ逃げ道を作ろうとした時には全てが遅かった。萃香の手にする鎖は鎌首をもたげ、目にも止まらぬ速度で迫り、あっという間に二人の足を絡め取ったのだ。それから先の結果は云わずとも知れている。萃香の怪力から逃れる手立てなど、今の二人には有り得ない。


 引き寄せられ、両の手で二人の頭をそれぞれ掴み、萃香は容赦なく地面へ抑え付けた。頭に強い衝撃が走り、脳が揺れ、意識が判然としているにも関わらず、目の前が朦朧とする。霊夢と魔理沙は互いの呻き声を聞きながら、歪んだ世界の中に、非常な萃香の言葉を聞いた。当然の勝利を得た優越に浸るでもなく、ただ無機質な萃香の声を。


「所詮はこの程度、鬼の力を見せるにも値しない。不意打ち云々、全て言訳さ」


 そして、萃香の一言が、二人の敗北を示し出す。


「萃まれ、岩石」


 霊夢と魔理沙は確かに見た事だろう。
 五指に顔面を押さえ付けられながら、その隙間から萃香の背後の上空、巨大な岩石が幾つも集まる光景を。朦朧とする意識の中、四肢を動かすのもままならない絶望の淵に、二人は死を覚悟した。


 ――直後。
 博麗神社の境内から、轟音と共に大きな砂塵が巻き上がった。

 

 

 

 

――続

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