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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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11.02.17:33

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  • 11/02/17:33

11.17.00:43

幻想郷大戦#9

東方SS五十三作目。
たまには激しく戦闘物。


彼女を弔う、季節を外れた蝶の舞い。

 次第に後ろに向かって倒れ行く身体を何処か客観的に眺めながら、リグルは自分の身体が淡く光ったような気がした。スペルカードを発動した時の光にも似たものがある。リグルのスペルカードは、発動によって虫達に命令を下し、力の補助を与え、それを攻撃の要とする。その点では他の者のカードとは毛色が異なるかも知れない。自らの強化でなく、自らの仲間達への力の付与こそが、彼女の本当の力なのである。


 そうして、痛みが胸を中心に波紋を広げて全身へと渡って行く中、力無く地面へと落ちて行くより他にないと考えていたリグルは、確かに暖かな光を自身に認めた。誰かに支えられているような、誰かに手助けをされているような、そんな不思議な心持ちである。今の彼女とは明らかな差異が見て取れる。そういった安堵の要素がありはしても、現実の彼女は死の寸前に立っているのだ。――最後なのだと、リグルは、ふと思った。


「あの子達が出てくるには、早い季節なのに……」

 

 


 

 

 

 霊夢は我が目を思わず疑った。目の前に繰り広げられた光景はあまりにも現実から懸け離れていた。この幻想郷に生きている以上、幾つもの異常に遭遇した事はあるが、それでも尚、目の前の光景は幻想的であった。


 彼女は自らが放った針が、リグルの胸に突き刺さった時に、この戦いの勝利を確信した。妖怪の力を奪う為に手によりをかけて作った代物である。それが如何ほどの効果を示し出すかは、彼女が一番知っている。そしてまた、それが心臓を穿つという事がどういう事であるかも、彼女が一番知っている。――だからこそ、リグルの周囲に起こった突然の変化は霊夢の目を見開かせた。詠嘆さえしてしまいそうなほど、驚かされてしまったのである。


「何が起こるって……」


 霊夢は目の前の光景から目を離せないまま、事態にどういった変化がもたらされるのかも判らず、その場に浮いていた。リグルの周囲には白い卵のような物が、到底数え切れぬほど浮いていた。霊夢はそれを何かに形容する事が出来ない。ただ漠然と、それの危険さと美しさに息を呑むばかりである。


 ――それは、遺言である。
 彼女を慕った虫達は、その遺言を受け取った。そうして彼女の為に働きたいと思ったからこそ、力を貸そうとしたのである。冬の肌寒い季節に起こった奇跡、それは本来有り得ないはずの孵化、成長。リグルを囲うように展開された白い卵の数々は、淡い光を放ちながら、まるで白昼に輝く星々のように、煌々と輝き出す。そうして、幾千の卵から、美しき蝶は生まれる。赤い衣、青い衣、黄色い衣――その一匹一匹が多様な色の光を纏い、季節外れの空を舞う。
 遺言、即ち最後の言葉。
 ある条件が揃った時に初めて発動する、最も尊きスペルカード。
 彼女の遺志を継いで、虫達の意思によって引き起こされたそれは、しかしスペルカードとは云えないのかも知れなかった。宣言もなく、またカードという物すらなく、それでも発動されたそれに、名はない。ただ心地好い光に抱かれながら、霞んで行く視界の中に愛する虫達が楽しそうに舞う姿を認めた時に、リグルは一言だけ呟いた。


 ――まるで、季節外れのバタフライストーム。
 リグルの唇は笑みの形さえ象っている。


「――っ!」


 霊夢は遊び回るように好き勝手に飛んでいる蝶を茫然としながら眺めていた。そうして、その内の一匹が自らの肌を掠った時、瞬時に正気へと引き戻された。掠った箇所には生々しい切傷がある。何で切られたのかも判然としない。ただ、何の力も持たない蝶が、その身に恐るべき力をもたらされたのだけは判る。


 しかし、霊夢が血を流して初めて、好き勝手に飛んでいた蝶達は急激に動きを変えて、霊夢の方へと向かってきた。或いは一列になって、その身体を貫かんとするように。或いはその身体を細切れにしようとするかのように、ばらけながら。それらのことごとくが、速い。人間の動体視力など容易に超越している。嵐と形容するに相応しい蝶の群れは、その美しさとは反して恐るべき殺傷能力を携えていた。


 しかし負けられぬのは何も虫達ばかりではない。霊夢とて重大な責務を感じている。彼女は既に人間を超越した動きで、迫る蝶の嵐を避けていた。その全ては紙一重である。一寸の判断の失敗が死を招く。けれども到底避け切れる数ではなかった。卵は次々と孵化し、一瞬にして成虫へと成長を遂げる蝶は、光を纏ってまた襲い掛かる。不利なのは霊夢である。刹那の間に増す数量、埋め尽くされる隙間、増して行く破壊力。その全てが、彼女を追い詰めていた。


「こんなの、避け切れる訳……っ!」


 次第に自らの肌を掠るようになってきた蝶の弾丸が、霊夢に現実を教える。もう諦めろ、この嵐に巻き込まれて死ぬが好いと、恫喝されている。霊夢は自分の力が既に行き届かない所に行くのを理解していた。間もなく回避の間に合わない蝶の一匹は容赦なくこの身を貫くだろう。――ならば、真向から立ち向かうより他にない。


「――境界! 二重大結界!」


 取り出されたスペルカードは、霊夢の言霊を受けて発動する。莫大な結界が霊夢を囲い、そうしてその内にまたもう一枚の結界の膜が張られる。そのいずれもが強固であるのは、あれほどの破壊力を秘めた蝶達が結界を越えられないのを見れば明白である。けれども決して無敵ではない。断続的に続く衝突音が続くにつれて、結界には罅が入って行き、媒介として使用されている符は、ちりちりと音を立てる。凄まじい嵐を傘で防ぐのとまるで同じである。


 霊夢は全神経を結界の維持に向けた。蝶の衝突は最早永遠のように思われる。汗が額に滲む。外側の結界が、一枚割れる。符の一枚が焼き切れる。最後の結界にも、罅が入る。
 ――蝶々の軍勢は、未だ衰える事がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

――続

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