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東方とか他の二次とかふと思い付いた一次とかのSSを載せるかも知れない。 でも基本は徒然なるままに綴って行きます。
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11.02.19:25

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  • 11/02/19:25

10.10.19:31

幻想の詩―蓬莱の連―#3

東方SS三十三作目。
蓬莱の薬に手を出した面々で連載物。


祭りの外に、死の煙が立ち上る。

 祭りの中は騒がしかった。
 去りゆく年に感謝を示すという本来の目的があれども、人々はそんな事は関係ないのだろう。皆思い思いに好きな出店やらを回っている。妹紅はそんな溢れんばかりの人の群れの中を、適当に目を配らせながら彷徨していた。


 里に襲い掛かってくる妖怪が居るとは思えないが、暇つぶしついでにこうして人々を眺めながら祭りの雰囲気に当たるのも好いものである。特に気楽な人々の顔が好い。まるで人生を心底楽しんでいるように見える。妹紅は他社に起こり得る幸福を自分の物のように感じながら、また次の場所へと目を移す。


 ふと慧音に云われた言葉を思い出した。確か里の者と交流を持てというような提案である。周りを見ると、そこには見事に人間しかいない。奇異な能力など一切持たないような普通の人間である。妹紅はそれを見る度に一種心地好いような、心地悪いような、どっちつかずな感情を覚え、背中の辺りがむず痒くなる。何が心地好いのだか、何が悪いのだか、まるで判らない。どうしようもなく、妹紅は平生の通り、その問題を頭の隅に追いやって、また祭りの喧噪の最中を歩き出した。


 提灯の光が夜の闇を切り裂き、月の光を薄くしている。
 何となく悪い天気だ。妹紅はそんな事を思った。

 

 

 

 

 妹紅はある目的を持ちながら里の中を歩いている。先刻までは無意識のまま、何を見ているかの判別も曖昧な所に、僅かな警戒心を持っていただけであったが、今は判然とした動機の元に歩んでいた。ただし目的地はない。目的地がないからこそ、彼女の目的はより顕著になる。目的地が見えた瞬間が、彼女を歩かせる動機が消える時である。妹紅は見当の付かない宛先を目指し、歩いている。


「どうだ、何もなかったか?」


 ところへ、慧音がやってきた。確か自分は祭りの外を監視していると云っていたと思い出して、妹紅はそれについて言及してみた。慧音は里の人間の一人が先生も楽しんできて下さいと根気よく云ってきたので、その好意を断る事も出来なかったから、仕方なく少しだけ祭りを見に来たのだという。そのついでに、里の中を見張っていたお前に会いに来たのだとも付け加えた。妹紅はなるほどと思い、今度は慧音と肩を並べながら歩き出した。


「私の方には何もないよ。元からそう心配する事でもないさ。ただ、迷子がいる」
「迷子か。それはまた、何故」
「何故って、迷子になったんだから仕方がないわよ。さっき、迷子の娘を知りませんかと云う母親らしい人がきて、知りませんが、一緒に探しましょうと云ったの。それで、今は迷子の捜索に忙しいんだ」


 説明を終えると、慧音はにやにやと笑い始めた。
 詰られているかのような不快感があると同時に、羞恥心が湧き出る。自分らしくないと云うよりは、慣れていない事をしているようだが、それが何故だか恥ずかしい。妹紅は心持ち淡く頬を染めながら、早歩きになった。慧音もその速度に合わせて、「私も一緒に探そう」と云った。


「しかし、この人混みの中からとなると――」


 慧音が辺りを見回しながらそう云い掛けた時であった。
 突然話の句を切った慧音は、視線を鋭くして足を止める。無論その理由を妹紅は判っている。祭りの喧騒から少し離れた辺りに悲鳴が響いた。彼女ら以外には気付け名がったろう。つまりは、それくらいの距離である。二人は聞こえたかと同時に申し合わせると、すぐに行動を起こした。もしかしたら里の離れた所に行ってしまった迷子が、低級な妖怪に襲われたのかも知れない。そうであるとしたら、最悪の場合は避けねばなるまい。


「私が空から行く。慧音は他の妖怪が里に入ったりしないように、里の周りに気を配ってて」
「判った。心配も邪魔の物かも知れないが、一応、気を付けて行け」
「ああ、死ねる奴なら嬉しい言葉だ。生憎心配は要らないよ。ただ少し、撫でてあげるだけだから」


 そう云い残して、妹紅は人々の頭より上に飛び立つと、声のした方へ一目散に飛んで行った。それを見送った慧音は、複雑そうな顔をしながらも事件の拡大を抑える為に、走り出した。

 

 

 ぎらりと輝く目は飢えている。黒々とした毛並みは月を受けて怪しい光沢を放ち、銀の牙には紅が混じっている。口端から垂れる唾液は、目の飢えを表すかのように貪欲であった。
 妹紅が現場に辿り着いた時、そこには一匹の獣と、二人の人間が対峙していた。人間の内一人は幼い娘である。涙を流しながら、もう一人の人間の背中に隠れて、助けてと頻りに叫んでいた。もう一人の人間は肩から血を流し、額に汗を浮かべながら身構える獣に向かって棒を付き付けている。今にも睨み合いの均衡が崩れんとしている所へ、妹紅は降り立った。


「可哀想に。餓えて人里に降りてくるなら、山で根気強く獲物を探した方が好かったろうに」


 獣は妖怪ではなく、ただ飢えているだけの狼であった。今まさに、食事に有り付けると思った所へ急に邪魔がきたのを腹立たしく思ったのか、全身の毛を逆立てて威嚇している。妹紅は憐憫の眼差しを向けて、溜息を吐いた。尻目に二人の人間を捉えると、警戒心を剥き出しにした男の睥睨が、幼い娘の怯えた眼差しが、同時に妹紅に降り掛かる。まずは安心させた方が好かろうと、妹紅は自警団の者だと二人に告げた。


「安心しても好いわ。――すぐに終わる」


 そう云った。
 そう云った時には、妹紅に飛びかからんと構えていた狼は、赤々と燃える炎の舌に舐められて、地面の上をのた打ち回っていた。焼ける肉の臭いには、随分と慣れていた。

 

 


――続

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